商社の歴史(シンプル・バージョン)
※とくに規模の大きい総合商社の流れを中心にしています
- その昔、商社といえば「モノを右から左にながす」ことだけを商売としていた
↓ - 高度経済成長期に入りメーカーの輸出が好調になる
↓ - メーカーには輸出するノウハウがない!海外で販売しようにも支店がない!
↓ - 商社がメーカーの輸出代行・販売代行をして稼ぐ時代
↓ - なんなら原料の鉄とか石油、ガスも輸入してきますよ!
●モノを運ぶのにタンカーとか大型船が必要だから、郵船ビジネスもついでにやっちゃおう!
●原料を輸入して売るだけだとマージン薄いから、資源権益に投資したらリターンが増えるじゃん!
↓ - 商社がメーカーの川上(原料調達)から川下(販売)までどっぷり浸かる時代
↓ - そうこうしているうちにバブル期に突入!
●商社は不動産・株に投資して、投資でも利益を上げる
↓ - ところがバブル崩壊
●不良債権の大きい企業は再編・合併・廃業
↓ - これで商社はもう終わりか…
↓ - そうこうしている内に中国が急成長!
●資源が足りない!
↓ - ふふ、商社は昔から資源投資してたのさ
●資源ビジネスで荒稼ぎ!
↓ - 中国景気の減速…資源バブル崩壊!
●資源は当面もうダメだ、どうしようかなぁ…
●中国の特需もなくなってきた、どうしようかなぁ…
↓ - とりあえず原点回帰だな…
●景気が悪いときは手堅いトレーディングと事業投資でがんばろう ← 今ここ!!
すみません…わかりやすく解説するつもりが、めちゃくちゃ長くなっちゃいました…。ここで言いたかったのは、「商社は時代とともに変わる」ということだけです(汗)。
商社ビジネスとは結局、「儲かる仕組みづくり」だった
結局のところ専門商社であれ、総合商社であれ目指しているところは一緒。
それは「儲かる仕組みを作ること」です。
商社だってモノを単に「右から左」しているだけでは、ちょっとしたことで商売を失ってしまいます。あなたにも経験があることと思いますが、楽天は使い勝手が悪いから「アマゾン」に乗り換えよう、というのが正に商社にとっての「商売を失うリスク」です。
じゃあどうしたら「商売を失うリスク」を減らして逆に、「商売を拡大するチャンスに変えるか?」
ということを商社マンは考えます。
そうすると答えはひとつしかなくて「長く稼げる仕組み」を徹底的に作り込む、となります。「長く稼げる仕組み」として商社がやっていたのは、たとえば以下のようなことですね(歴史で説明したことの繰り返しにはなりますが)。
- 産業の川上(資源)から川下(末端製品)までのビジネスにすべて入り込み、原料と製品の売買をしてマージンを得る。なんなら投資してリターンまでも得てしまう。
- それに派生するサービスも手がける。たとえば倉庫、物流、郵船など。
- 稼げそうな事業があればどんどん投資する。なんなら企業ごと買ってしまう。
- またそれに付帯するサービスも埋めていく
- どんどん拡大する
もっと具体的に商社の「稼ぐ仕組みづくり」を考える
上記は少し抽象的な例となってしまいましたので、もっとわかりやすく商社の「稼ぐ仕組みづくり」について考えます。
たとえば自動車を作るときのことを考えましょう。
商社マンの「長く稼げる仕組みづくり」とは以下のような思考回路で進めていきます。
- 自動車メーカーにモノを売りたいなぁ
↓ - 自動車ってどうやってできるのだろうか?
↓ - ふむふむ、部品がだいたい2万点あってそれぞれのサプライヤーはデンソー、住友電工、トヨタ車体、アイシン精機etc…だな(本当はもっと細かくすべてを調べる)
↓ - デンソーが作った自動車部品を仕入れてトヨタに売るのは難しそうだ…あそこはもうガチガチに仲いいから商社は不要だろう
●同じようなスタディーをすべてのサプライヤーに対してやる
↓ - 自動車メーカーに直接売るのは難しそうだ…
↓ - じゃあ上流の自動車部品メーカーに何か売れないか?
●じゃあ自動車の輸出はどうだろうか?
●じゃあ中古車をトヨタから買ってアフリカに輸出したらどうだろうか?
↓
↓ 切り口が見つかるまでスタディー&アクションを繰り返す
↓ 持っている人脈をすべて使う
↓ - 鉄鋼ならいけそうだ!
↓ - 新日鉄(鉄鋼メーカー)から鉄を仕入れ、トヨタ車体(車体メーカー)に売ろう!
↓ - 右から左だけじゃあ、最初はよくてもメーカーに切られる可能性あるな…
↓ - もっと上流(原料)まで入り込んで、簡単には切れない商社になろう
●鉄鋼の原料ってどこから輸入してる?すべて洗い出し
●鉄鋼作るのには何が必要?すべて洗い出し
●付帯するサービスにはどんなものがある?すべて洗い出し
↓
↓ 切り口が見つかるまでスタディー&アクションを繰り返す
↓ 持っている人脈をすべて使う
↓ - 新日鉄は自社で鉱山権益をもってるけど、それでも足りなくてオーストラリアの鉄鉱石メーカーから買っているらしい。それじゃあ権益にウチも投資して、新日鉄に鉄鉱石を売ろう!
●さらに鉄鉱石の権益投資を拡大して、他の鉄鋼メーカーに売ったらどうだろうか?
●とくに新興国は安くて良質な資源の確保に苦労しているから、絶対に稼げる!
↓ - よし、鉄鉱石の権益に投資しよう!
●鉄鉱石を運ぶための配送サービス・輸入代行もやろう!
●なんなら船も自社で買ってしまおう!
↓ - これでメーカーに切られたら、こっちは鉄鉱石のサプライを止めればいい。お互いに切っても切れない関係に持っていけるな!!
↓
↓ - 上流(原料調達)から下流(製品の販売)までのスキームが一個完成!!
↓ - 同じような仕事を2万点の部品に対してすべてやる
↓ - こうして今の地位を築き上げてきた
専門商社と総合商社の違いとは?
ここからは少しマニアックな解説になります。
商社のなかにも大きく分けて「総合商社」「専門商社」の2つがあります。
シンプルに違いを説明すると以下のとおり。
- 総合商社「何でも屋」
- 専門商社「ある分野に特化している商社」
ただし商社はもともとが「何でも屋」であるため、厳密な使い分けはありません。報道関係者がざっくりと次項のように決めています。
5大総合商社・7大総合商社とは?
5大総合商社と言えば?以下5社のこと。
①三菱商事
②伊藤忠商事
③三井物産
④住友商事
⑤丸紅
また7大総合商社といえば、以下2社をくわえます。
⑥双日
⑦豊田通商(トヨタグループ)
これにくわえて「兼松」も総合商社とカウントしてもよいかと思いますが、あくまで上記は報道関係者の意見です。この7社は商社の中でもとくに規模の大きい企業であり、「ラーメンからロケットまで」と言われるように多くの事業をもちます。
専門商社とは?
専門商社とは「ある分野に特化した商社」のこと。
たとえば、鉄鋼製品を売るのが得意な商社なら「鉄鋼系の専門商社」。繊維製品を売るのが得意な商社なら「繊維系の専門商社」。化学製品を売るのが得意な商社なら「化学系の専門商社」というなカテゴリー分けができます。
では、ある分野に特化している専門商社にはどんな会社があるのか?
以下に代表的な企業をまとめます(とくに売上が大きい専門商社のみ挙げます)。
- 鉄鋼系の専門商社
●伊藤忠丸紅鉄鋼
●メタルワン
●阪和興業
●JFE商事
●日鉄住金物産
●神鋼商事 - 食品系の専門商社
●三菱食品
●加藤産業 - 繊維系の専門商社
●東レインターナショナル
●エヌアイ帝人商事 - 電機系の専門商社
●キャノンマーケティングジャパン
●日立ハイテクノロジーズ
●マクニカ
●菱電商事 - 化学系の専門商社
●花王カスタマーマーケティング
●稲畑産業
●長瀬産業
●蝶理 - 医薬系の専門商社
●スズケン
●メディバルHD
●アルフレッサHD - 機械系の専門商社
●岡谷剛機 - エネルギー系の専門商社
●伊藤忠エネクス
●岩谷産業 - 紙・パルプ系の専門商社
●日本紙パルプ商事(王子製紙系列)
●新生紙パルプ商事(王子製紙系列)
●国際紙パルプ商事(日本製紙系列)
●日本紙通商(日本製紙G) - 兼松(何でも系の専門商社)
専門商社は上場していないオーナー企業も含めると、数え切れないほどあります。ある分野に特化している企業であるため、規模は総合商社ほど大きくありません。ギャンブル的な要素のある事業投資ビジネスは少なく、堅実なトレーディングを主体としています。
また専門商社は分野ごとに分けるだけでなく、さらに「メーカー系・総合商社系・独立系」と大きく3つに分類されます。
就活や転職の際には分野だけでなく、独立系なのか?総合商社系なのか?メーカー系なのか?も併せてみていくとよいでしょう(それぞれ文化が違います)。
「トレーダー」と商社の違いとは?
先ほどあげた商社の事業投資の例をみていくと分かるように、いわゆるトレーダー(株とか不動産に投資する人)と商社が違うのは、投資する案件にあります。
- 違い「トレーダーは金融商品とか不動産の売買でかせぐ」
- 違い「証券会社は顧客の資産を運用し手数料をもらうことで稼ぐ」
- 違い「商社は金融商品ではなく実態のあるビジネスに多く投資してリターンを狙う」
商社の事業投資はたとえるなら、ソフトバンクの孫正義オーナーがやっているようなことです。彼はIT・通信やベンチャー企業の投資に特化していますが、商社はどちらかというと、トレーディングで培ったメーカーとの人脈を生かして上流産業に投資します。
もちろん、規模の大きい総合商社はケーブルテレビ会社(J:COM=住友商事)を持っていたり、ローソン(三菱商事)やファミマ(伊藤忠商事)を持っていたりと、消費者に直接からむようなグループ会社も多くあります。
そして、商社ビジネスは時代とともにどんどん変わっています。今はこんな感じですが、将来的に証券会社・金融会社のようなスタイルでビジネスをやっていても、おかしくはありません。
総合商社のランキング
収益ランキング(2015年度実績)
- 1位;丸紅 (収益7兆3,003億円)
- 2位;三菱商事 (収益6兆9,256億円)
- 3位;伊藤忠商事 (収益5兆835億円)
- 4位;三井物産 (収益4兆7,597億円)
- 5位;住友商事 (収益4兆108億円)
- 6位;双日 (収益1兆6,581億円)
- 比較できず;豊田通商 (売上8.1兆円)
ところで総合商社の業績は、国際会計基準(IFRS)へ移行したため売上でなく収益でみます。日本式を使うと、モノを右から左に流す総合商社は売上規模が20兆円とかになって、完全におかしくなります。そして豊田通商だけは従来の日本基準であるため、他と比較できません。
収益がどのように計算されているかを例に出しておきます。
●売上と収益の違い:
①メーカー → 総合商社(在庫していない。単に仲介するだけ) → お客さん
日本会計方式;100万円で買って110万円で売ったとすると、売上110万円。
国際会計基準(IFRS);100万円で買って110万円で売ったとすると、収益10万円。
②メーカー → 総合商社(在庫している) → お客さん
日本会計方式;100万円で買って110万円で売ったとすると、売上110万円。
国際会計基準(IFRS);日本式と同じ
※在庫などのリスクがなく、お客さんからきた注文書をメーカーに横流しするだけの場合は、マージンだけが収益としてカウントされます。
※本当はもっとややこしいですが単純化しています。
平均年収ランキング(2015年度実績)
- 三菱商事(年収1,444万円)
- 伊藤忠商事(年収1,383万円)
- 三井物産(年収1,363万円)
- 住友商事(年収1,255万円)
- 丸紅(年収1,225万円)
- 双日(年収1,040万円)
- 豊田通商(年収952万円)
この平均年収の出典は各社の有価証券報告書です。平均年齢はどの総合商社も40~42歳くらい。ただし平均年収は一般職も含めた平均ですので、大卒・総合職の年収は平均値よりも高くなります。実際に働いている社員に聞いた、本当の年収もまとめています。就活・転職者は以下の記事をご参考にどうぞ。
大卒・総合職の年収事例
- 三菱商事の年収まとめ|閲覧注意)確実にテンション下がります
- 三井物産の年収まとめ|これってマジでサラリーマンの年収か?
- 伊藤忠商事の年収まとめ|5大総合商社トップになる日も近い?
- 住友商事の年収まとめ|もはや説明不要の高年収企業!
- 双日の年収まとめ|総合商社の中では低いけど実際どう?
- 丸紅の年収はやっぱり凄かった!総合職の年収まとめ
- 豊田通商の年収まとめ|5大総合商社には劣り、メーカーよりは高い!?
専門商社のランキング
売上ランキング(2015年度実績)
- 売上3.0兆円|メディパルホールディングス(医薬系)
- 売上2.5兆円|アルフレッサホールディングス(医薬系)
- 売上2.3兆円|三菱食品(食品系)
- 売上2.2兆円|スズケン(医薬系)
- 売上1.9兆円|日鉄住金物産(鉄鋼系)
- 売上1.5兆円|阪和興業(鉄鋼系)
- 売上1.3兆円|東邦ホールディングス(医薬系)
- 売上1.0兆円|伊藤忠エネクス(エネルギー系)
- 売上1.0兆円|兼松
- 売上9,531億円|加藤産業(食品系)
- 売上8,603億円|PALTAC(医薬系)
- 売上7,913億円|神鋼商事(鉄鋼系)
- 売上7,854億円|岡谷鋼機(機械系)
- 売上7,466億円|三愛石油(エネルギー系)
- 売上7,421億円|長瀬産業(化学系)
- 売上6,767億円|あらた(日用品)
- 売上6,530億円|伊藤忠食品(食品系)
- 売上6,293億円|キャノンマーケティングジャパン(電機系)
- 売上6,289億円|日立ハイテクノロジーズ(電機系)
- 売上6,210億円|バイタルケーエスケー(医薬系)
この売上ランキングには非上場企業の大手を含んでいません(売上が公開されていないため)。他にも規模の大きい企業をまとめておきます。
- 非上場|メタルワン(三菱商事&双日の合弁)
- 非上場|伊藤忠丸紅鉄鋼(名前の通り)
- 非上場|JFE商事(名前の通り)
また専門商社の企業研究をするときには、売上よりも業界ごとに特徴を見ていくほうが良いです。なぜなら消費者に近い商品を扱っていれば売上だけはどんどん大きくなるから。ということで、売上ランキングだけ見ていてもあまり意味がないと思われます。
平均年収ランキング(2015年度実績)
※HD = ホールディングスの省略
- 年収1,173万円/48.9歳|マクニカ・富士エレHD
- 946万円/36.0歳|ラクト・ジャパン
- 896万円/41.1歳|伊藤忠エネクス
- 894万円/40.6歳|ミツウロコグループHD
- 892万円/40.3歳|三洋貿易
- 882万円/39.9歳|長瀬産業
- 875万円/44.3歳|アルコニックス
- 874万円/43.3歳|リーバイ・ストラウスジャパン
- 857万円/38.5歳|岩谷産業
- 850万円/43.5歳|都築電気
- 842万円/46.6歳|キヤノンマーケティングジャパン
- 841万円/41.1歳|稲畑産業
- 839万円/37.1歳|岡谷鋼機
- 836万円/49.5歳|OUG HD
- 833万円/38.8歳|日本ライフライン
- 822万円/37.8歳|阪和興業
- 815万円/39.5歳|Nuts
- 814万円/40.3歳|高島
- 811万円/43.5歳|白銅
- 808万円/42.0歳|日立ハイテクノロジーズ
- 807万円/44.2歳|菱電商事
- 806万円/40.2歳|レッド・プラネット・ジャパン
- 801万円/42.3歳|クリヤマHD
- 795万円/40.5歳|兼松
- 787万円/42.9歳|メディパルHD
- 786万円/42.0歳|明和産業
- 783万円/48.1歳|ダイワボウHD
- 782万円/41.7歳|日鉄住金物産
- 778万円/41.3歳|三谷商事
- 774万円/40.2歳|トーメンデバイス
大卒・総合職の年収事例
ただし平均年収は一般職も含めた平均ですので、大卒・総合職の年収は平均値よりも高くなります。実際に働いている社員に聞いた、本当の年収もまとめています。就活・転職者は以下の記事をご参考にどうぞ。
- メタルワンの年収が実は凄かった!
- 伊藤忠丸紅鉄鋼の年収が実はすごかった!
- 長瀬産業の年収は高い?低い?
- 畑産業の年収は高い?低い?
- 伊藤忠エネクスの年収|伊藤忠商事グループだけあって高年収!?
- 神鋼商事の年収|メーカー系専門商社の年収ってどうもパッとしない…
- JFE商事の年収|ランキングからは見れない事実
- 日鉄住金物産の年収まとめ
- 兼松の年収|注意)5大総合商社の年収と比較してはいけません
- 阪和興業の年収|鉄鋼専門商社は年収高いって言うけど本当?
- 三菱食品の年収まとめ|食品系専門商社No.1なのに…
商社って本当に必要?
ところで話は戻りますが、「商社って本当に必要?中間マージン取るだけだったら要らないじゃん?」という議論をします。つづく
分かりやすかったです。