三菱化学?
三井化学?
住友化学?
富士フィルム?
残念ながらどこも違います。
ファンダメンタルズの分析は投資家に任せるとして、一般人や投資家にはあまり知られていない情報から判断します。
就活や転職の企業・業界研究の際にご参考になりましたら幸いです。
*2016年7月追記;宇部興産、東洋紡
*2016年7月末追記;個別企業研究データへのリンク
*2016年9月追記・修正;信越化学の部分、日産化学工業、日油、トクヤマの追記
この記事の目次
信越化学工業
将来性★★★★★
安定性★★★★★
塩ビとシリコーン・半導体用シリコンウェハーだけの会社だが、どちらも圧倒的に世界No.1。
塩ビ事業
塩ビ樹脂は、コスト面と性能面の両方から他の素材に変えのきかない優秀な材料。今後も建築やインフラに必要な樹脂。
ただし塩ビ樹脂を作るだけなら、設備と技術を買えば誰でもできる。実際、中国には塩ビメーカーが大量に存在し全世界の需要量を中国のキャパシティーだけで補える。
ということは余剰設備が大量にあり価格破壊が起きているマーケット。それでも莫大な利益を上げられる、というところが凄い。
利益を生み出すカラクリは以下の通り。
- 米国にメイン生産拠点がある=原料の安い地域で生産
- プラントの設計&製造技術に優れる=安定した品質
- 安く作って安く売る=米国の保護経済に守られて内需安定。余ったキャパで世界中に輸出
信越化学が本気になれば中国メーカーでさえ価格で勝てないと言われる。
圧倒的に安く作って安く大量に売るという、パワーゲームの勝者。日系メーカーらしからぬ戦略ですね。
半導体用シリコンウェハー事業
集積回路やメモリの基盤に使われる材料で、市場は永遠になくならない。
塩ビと違うのは誰でも作れるものではないところ。純度を高めるための精製技術と薄く作るための加工技術が必要。くわえて新たな製品の開発力も必要で、市場では常に薄い製品が求めらている。
この分野でなぜ信越化学が稼いでいるか、まとめると以下の通り。
- オーストラリア保有の山から良質な原料が安価で無限に採れる
- 原料〜加工〜レジスト。上流〜下流まで手がける
- 信越化学とSUMCOで世界市場60%以上。値崩れしにくい
- 技術面ではSUMCOと変わらないが「やり方」で勝っている
詳しくは添付記事をご参照ください。
- 参考|信越化学工業の企業研究
ダイセル
将来性★★★★★
安定性★★★★★
私が就職活動をしていたころ、全くチェックをしていなかったのを今でも後悔するほどの、隠れた超優良企業。
売上4200億円、営業利益も売上の10%前後と規模は中堅化学メーカーですが、安定感が抜群です。
セルロース事業
ダイセルが手がけるセルロース事業の用途はメインでは2つ。
たばこのフィルター原料:
ダイセルが最もエンジョイしている事業。日本や先進国ではたばこの需要は減っていく一方ですが、後進国での需要がどんどん伸びている。日本では1社しか製造していない上、世界的にみてもSolvayぐらいしかまともな競合がいない。
中国メーカーに真似されないの?
という質問が当然出ますが、たばこフィルターは口に直接接触する材料であるうえ、たばこの味に直接影響する重要な材料。したがって、顧客は一旦サプライヤーが決まると例え品質の良い安い材料があっても変えられない。消費者の立場から考えてみると分かるのですが、マルボロの味が突然変わったら、ものすごく怒りますよね!?
ということで今後、最低でも30年間は安定して利益を生み続ける事業。
保護フィルムの原料(酢酸セルロース):
偏光板=液晶用光学フィルムの一層に使われる保護フィルム(TACフィルム)の原料。保護フィルムの最大手である富士フィルムがメインの顧客。偏光板の技術が変わらない限りは安泰。
まともな競合がほとんどいないので値崩れしない安定的なビジネス。
有機合成事業、火工品事業、合成樹脂事業、新規事業
ダイセルではセルロース以外の事業はあまり注目されないが、実はどの事業もかなりマニアックに攻めていて、安定した利益をあげているのです。
このどれかの事業が飛躍する可能性を秘めている、ポテンシャルの高い化学メーカー。
- 参考|ダイセルの企業研究
日東電工
日本の化学メーカーで生き残っていけるのって、こういう会社なんだろうなぁ…といつも感じる会社。30年後には信越化学工業を抜いて日本を代表するトップ化学メーカーになって当たり前だと思う。
将来性★★★★★
安定性★★★★★
日東電工は原料を自社で持っていないため、いろいろな原料フィルムを買い、切ったり貼ったりするだけの会社。化学メーカーというよりは、加工メーカーといったほうが良いかもしれない。
シンプルに説明するとこんな会社になりますが、この切ったり貼ったりの技術がずば抜けて高いのです。加えて経営判断や現場判断のスピード感がとてつもなく早く、しかも的確。ゆっくりな化学業界においてこんな異質(良い意味で)なメーカーは日東電工を除いて存在しません
世界の巨大企業を寄せ付けない強さがここにありますね。
偏光板=液晶用光学パネル事業
テレビやスマホ、パソコンがある限りは必ず必要な材料。業界自体は浮き沈みが激しいが、世界的に見ると、必ず伸び続ける産業。
これも他の素材と同じで、韓国や中国には同じようなメーカーがたくさんあり、競合の激しい分野。また国内では住友化学や富士フィルムの子会社が競合になっている。
それでも他社を圧倒しているのは、コストだけでなく技術力。
日東電工の技術、研究者は本当に優秀な人が多くこれまで不可能と思われる技術を必ず完成させてきました。残念ながら、青色発光ダイオード発明のように、世間の脚光をあびることはほとんどありません。ですが業界の人々は間違いなく知っています。
韓国メーカーや中国メーカーに技術者をヘッドハントされ、すでに何人もの技術者が流出していますが、トップメーカーの地位は変わらないことでしょう。…
水処理事業
流行りの事業ですし、今後間違いなく需要が伸びる分野なので、どの化学メーカーも手を出しています。しかし、ちゃんとビジネスにできているメーカーは日東電工と東レだけでしょうね。切ったり貼ったりの技術から、他にない海水淡水化用逆浸透膜を生み出したのです。
しかし、水処理事業は材料売りだけでは全く旨みのないビジネス。
そこで日東電工は、化学メーカーでありながら浄水設備のプラント設計まで全て自社で手掛けることにしたのです。
普通、化学メーカーはプラント設計まで徹底的にできないです。なぜなら、それは機械メーカーの仕事であって化学メーカーにはノウハウがほとんどないからです。
そういうことも簡単そうに高いレベルでやってのけてしまう、本当に凄い会社です。
材料からダウンストリームまで全て抑えたら、もはや最強のビジネスモデルが出来上がりますよね?
- 参考|日東電工の企業研究
なんで他の化学メーカーは選ばれないの?
他の化学メーカーはどれも利益を一つの事業に大きく頼り過ぎていたり、ビジネスが汎用的なので競合に勝てるかどうか、疑問に残る部分があるからです。
一応、世間的には有望と思われている会社をざっくりと企業研究しているので、以下をご参考にしてみてください。かなり辛口のコメントになっていますが、実際には30年後にもこれらの企業は生き残っているでしょう。
今後の期待を込めてそれぞれの化学メーカーの課題を中心に抽出しました。次項からどうぞ。
ダイセルの営業利益率は10%を超えていますよ