2017年3月期より総合化学メーカー6社のランキング(売上、営業利益、営業利益率)を紹介する記事。
2017年3月期決算のまとめとしては以下のとおり(対前年比で)。
・原料安による価格調整がおもな理由で、総合化学メーカー6社すベて売上減
・三井化学、昭和電工、東ソーは大幅増収。三井化学、東ソーは過去最高益
・三菱ケミカル、旭化成は横ばい
・住友化学は減益
就活・転職のご参考にどうぞ。
用語解説)総合化学メーカーとは…
産業のコメといわれるエチレンを製造する化学メーカーのこと。定義はどこかの新聞記者が勝手に決めただけで、深い意味はない。
これにしたがうと三菱ケミカルホールディングス、住友化学、三井化学、昭和電工、東ソー、旭化成の6社=総合化学メーカーとなる。新聞によっては宇部興産や信越化学工業をくわえたりもする。
解説)化学業界の初心者にもわかりやすく解説しているため、知識のある方にはクドイと感じるかも。
総合化学メーカーの売上ランキング:2017年3月期
総合化学メーカーのランキング2017年版。
まずは売上ベースで比較すると画像のとおり。
※ メーカーによって2017年12月期あるいは2017年3月期のデータ
総合化学メーカーを売上でランキングしていくと…
直近5年はほとんど動いてない。
FY2015年 vs FY2016年をくらべると、どの企業も売上減。
とくに大幅減となったのは三菱ケミカルホールディングス・住友化学・三井化学の旧財閥系化学メーカー。
でもこれは心配すべきことじゃなく、仕方ない。
総合化学メーカーがどこも前年比で減収となっている理由はおおきく3つ。
- 原料安
・化学メーカーのほとんどは、石油をはじめとする資源を合成などして作る
・石油などの原料が安くなれば製品を値下げするため売上減。資源高は値上するため売上増。
・FY2015、FY2016は資源バブル崩壊して資源安になった年であり、化学品の値下げラッシュが続いた。
・メーカーだと一般的には資源安バンザイ!総合商社みたいな資源権益をもつヒトは資源高バンザイ!となる - 為替円高
・海外での売上が大きい化学メーカー。ドル取引するのが一般的で、円安になると円に換算したときの売上が増える。
・円安=円換算での売上増、円高=円換算での売上減 - 構造改革、事業整理
・旧財閥系(三菱・三井・住友)が中心となって国内石化プラントの撤退、集約を進めている。事業撤退や集約をすれば売上は減る。
ということでFY2015, FY2016の売上減は、なにも気にするレベルじゃないとわかります。
売上ランキングについて語っても無意味なため、数字および順位だけを以下ザックリと。
No.1 三菱ケミカルホールディングス:売上3兆4323億円
三菱ケミカルホールディングスは「三菱レイヨンG・三菱化学G・田辺三菱製薬G・大陽日酸・三菱樹脂G」でなりたつ。買収した大陽日酸はFY2015年よりふくむ。
来季から三菱レイヨンG・三菱化学G・三菱樹脂Gは「三菱ケミカル」となる。
No.2 住友化学:売上1兆9543億円
No.3 旭化成:売上1兆8830億円
No.4 三井化学:売上1兆2122億円
No.5 東ソー:売上7430億円
No.6 昭和電工:売上6711億円
総合化学メーカーのランキング営業利益:2017年3月期決算
総合化学メーカーのランキング2017年版。
つづいて営業利益ベースで比較すると画像のとおり。
総合化学メーカーを営業利益でランキングしていくと…
直近5年で順位はほとんど動いてないものの、個別企業の利益推移をみると東ソー・三井化学・昭和電工の改善ぶりが目立つ結果に。
またFY2015年 vs FY2016年を比べると…
・三菱ケミカルHDと旭化成はステイ
・東ソー、三井化学、昭和電工は大幅増
・住友化学は総合化学メーカーでゆいいつの大幅減益
となりました。
理由は個別企業ごとにいろいろと事情があるため、以下にて解説。
No.1 三菱ケミカルHD:営業利益2686億円
三菱ケミカルHDはFY2015年に過去最高益を達成。
営業利益は2年連続で好調を維持。
好調の理由はおおきく以下4つ。
- 基礎化学品の黒字化
・旧 三菱化学は赤字会社だったものの、円安と資源安のダブルラッキーで黒字化
・直近はラッキーが重なっただけ
・今後の業績のカギをにぎるのは事業再編。エチレンセンター再編とか石化プラント再編、ようは規模の縮小でどれだけ今後も利益継続できるか(すでに動いている) - 田辺三菱製薬の利益貢献大
・営業利益1000億円くらいが田辺三菱製薬の利益貢献
・製薬メーカーとしては中規模なのだが、リウマチ治療薬「シンポニー」など好調
・海外で売れる実力がないため外資にライセンスし、そこからのライセンス収入でかい
・ただ製薬はギャンブルの要素がつよく今後どうなるか… - 大陽日酸の利益貢献
・つづいてFY2015に買収した産業ガス会社の大陽日酸の利益貢献もおおきい。500億円前後の営業利益 - 機能性樹脂、アクリル、MMAは堅調
・いまや世界トップとなった三菱レイヨンのMMA事業とその派生商品(ディスプレイ材料になったり、自動車の透明ランプカバーになったり、いろいろ使える)
・日本合成化学工業の食品包装用バリアフィルム(レトルト食品とかのパックになる)、偏向板用フィルム(ディスプレイ材料)など
No.2 旭化成:営業利益1592億円
旭化成もFY2015年に過去最高益を達成。
営業利益は2年連続で好調を維持。
好調の理由はおおきく以下3つ。
- 住宅
・これまで足を引っ張ることの多かった住宅分野での堅調
・メインは旭化成ホームズ。利益貢献は600億円ほど - ケミカル分野:資源安によるマージン増
・旭化成のケミカル分野といえば①スチレン系事業-最終的にタイヤのゴムとかになる、②エチレン系事業-汎用プラスチック、③アクリロニトリル-火薬の原料など、④高機能製品-①〜③の応用やサランラップにわけられる。
・いずれも原料安によってマージンが増えた。利益貢献は700億円超 - ヘルスケア分野の好調(医薬・医療および買収)
・FY2011に買収した米ゾールメディカル社の利益貢献(LifeVest®️というよくわからない商品を売っている)。急成長して利益貢献は150億円ほど
・あとは旭化成メディカル取り扱いの、骨粗しょう症の治療剤「テリボン」とウィルス除去フィルター「プラノバ」が手堅い。利益貢献は170億円ほど
・ほかにも数社の買収案件あり
No.3 住友化学:営業利益1343億円
住友化学はFY2015年に過去最高益を達成したものの、FY2016は減益。
理由はおおきく3つ、
- メチオニン(家畜のエサ)の市況悪化
・住友化学の稼ぎ頭だったメチオニン
・市況悪化の要因は複雑すぎて誰にもわからないが、とにかくFY2016は悪かった
・FY2017には持ち直すといってるし、あまり心配するほどのことじゃない - 偏向板(ディスプレイ材料)の市況悪化
・PC、テレビ、スマホ、タブレットの画面にほぼ搭載されている偏向板
・原料安によってコストは下がったものの、それ以上に値下げ圧力がつよく大幅減益
・日系メーカーでは日東電工と住友化学が2大メーカー。中国・台湾・韓国には腐るほどある。
・スマホむけ特にiPhoneが強かったのだけど…住化よりも日東電工のほうが圧倒的につよい。苦しまぎれに有機ELむけ材料を開発するしかない状況。
・電子材料系はいいときはとことん行くけど、冷え込むと大変なことになるので要注意 - 円高
・円高は、すべてのメーカーにとって利益を下げる共通要因
ポジティブな材料としては…
大日本住友製薬からの安定収入(でも製薬はギャンブルなのでいつどうなるか読めない)。
あとはメチオニンとディスプレイの市況がうわむくことを祈るだけ、という状況。
偏向板は技術力にも問題あると思うのだけど…
No.4 東ソー:営業利益1112億円
東ソーはFY2015年・FY2016年と2年連続で過去最高益を更新。
とくにFY2016年は営業利益1000億円の大台を突破しました。
理由はおおきく2つ。
- 基礎化学品(塩ビ・ウレタンなど)の利益改善
・塩ビはおもに建築やインフラの配管とかに使われる樹脂。ウレタンは自動車のシート、建築、家具の接着剤になる原料。いずれも汎用化学品
・利益改善したのは単なるラッキー、とくに輸出と海外事業の利益改善。
資源安と為替、および中国メーカーの環境対策によってライバルが稼働停止に追い込まれていること。
・為替100-110円と資源安がつづけば赤字に転落することはないけど…なにか特別なことをしたわけじゃない、市況に左右されやすい(汎用化学品に共通)。
・利益貢献は700億円ほど(石油化学・クロルアルカリ事業の合計) - 安定成長の高機能商品群
・東ソーの高機能商品はおもにゼオライト-自動車の排気ガスをとりのぞく化学品、ジルコニア-入れ歯とかになる材料で構成される。どちらも堅調。
・ゼオライトは電気自動車EVがでてくるまで安泰
・ほかにはタイヤのすり減りを防止するシリカ系材料も稼いでる(とくに航空機タイヤ用は寡占市場)、これは無くならない
・いずれの高機能商品も汎用化学品からの派生
・利益貢献は350億円ほど
No.5 三井化学:営業利益1021億円
三井化学は長年の低迷期をへて、FY2016年に過去最高益を更新。
とくにFY2016年は営業利益1000億円の大台を突破しました。
理由はおおきく4つ。
- 基盤素材(ウレタン・フェノール・PP・PTA・PETなど)利益改善
・基盤素材とひとまとめになっているけど、中身は汎用化学品。
・東ソーや三菱ケミカルとおなじく市況の改善と資源安によって利益改善
・市況次第でどうにでもなるため今後も楽観視はできない
・利益貢献は385億円(前年比+375億円)
- モビリティー事業
・まるで特殊部隊のような事業(のちほど少しだけ解説)
・利益貢献は407億円(前年比-42億円) - 機能化学品は堅調
・三井化学はウレタンの技術から派生した接着、粘着領域につよい
・アドマーなどのマニアックな接着剤をつくり、ほぼ市場を独占している(詳細は割愛)。 - ヘルスケアは今後に期待
・メガネレンズの材料、歯科材料など
・グローバル展開も含めてまだまだこれからという感じ
※モビリティー事業について:
ところで三井化学はほかの総合化学メーカーと違って「モビリティー事業」という、
名前だけではなにをやっているのか分からない事業があります。
なかみは自動車むけメインで、ICT(情報通信技術)むけ材料がサブ。
自動車はいろんな部材で成り立ってるのだから、
正直なところ投資家や知らないヒトが見ても、何ひとつわからないようになっています。
まるで特殊部隊。
バンパーの材料になるPP(ポリプロピレン)をつかったコンパウンド(混ぜ物)とか、
座席シートになるポリウレタンをつかった加工品とか、
ガソリンタンクにつかう原料・加工品とかいろいろ。
もっとも利益を出しているモビリティー事業の中身はブラックボックスであり、
わたしが詳しく解説するわけにはいかないような気がするため省略します。
No.6 昭和電工:営業利益420億円
昭和電工はFY2015、FY2016と2年連続で利益改善。
でも他の総合化学メーカーとおなじく、
原料安と円安のダブルラッキーによるものであり、何か特別なことをしたわけではない。
昭和電工の基礎化学品は
エチレン〜酢酸ビニル系(接着剤とかになる)のチェーンがメイン。
これまでお荷物というか、苦戦していたのですが
FY2015・FY2016年とつづけて、たまたま原料安と為替の恩恵をうけた形。
ほかの事業はアルミニウム〜エレクトロニクスの事業をもつ。
アルミニウムはもちろんアルミ缶とかになるわけですが、汎用であり価格だけ。
エレクトロニクスはHD(ハードディスク・パソコンなど向け)の動向次第。
技術は申し分ないものの好不調のなみが激しすぎる。
そして業界の技術がすぐに変わることも安定感を欠く要因。
総括すると
昭和電工は総合化学メーカーのなかで置いてけぼりをくらっているような状況。
総合化学メーカーの看板をそろそろ外した方がいいかもしれない。
こんにちは。
いつもブログを楽しく拝見させていただいております。
円安と資源安についてなのですが、政府の意向として日銀人事で金融緩和派を選ぶというのがあり、仮に次の衆院選で政権が交代しても委員の任期的に2020年頃まで今の為替状況は変わらないと思います。
さらに仮に政権交代後や安倍内閣の次の自民党政権が今の状態で金融引き締めを行ってもおそらくは景気の悪化により政権を維持出来ないと思いますので、白川時代のような円高不況は考えづらいと思いました。
資源安についてはシェールガスの採算が取れる水準まで価格が上昇したらシェールガスの生産が急増して価格が押さえられるというのがここ最近の流れなのであまり心配はいらないと思いました。
エネルギー以外の資源の話だったらすいません。