世界市場規模は120兆円、年率1~4%成長(2015年)
医薬品・製薬業界の市場規模はグローバルで約120兆円、市場の成長率は1~4%/年。ここ10年の間にマーケットは倍増している。先進国では高齢化によるマーケット拡大、途上国は医療の発展によるマーケット拡大を期待できる。
ちなみに地域ごとの市場規模は大きい順に、
アメリカ > 中国 > 日本 > ・・・となる。
ただし市場の成長率は低い。その理由は大きく以下3つある。
- 医薬品のマーケットは数量ベースでは爆発的に伸びる
↓ - ところが先発医薬品からジェネリックへの置き換えによる金額の減少もかなりの額になる
↓ - それぞれが相殺しあって、結果として今後は成長率1~4%/年くらいにとどまる予測
※出所:Statista.comのデータを参照、翻訳(為替1USD=110円として計算)
国内市場規模は10兆円(2014年)マイナス成長
いっぽうで国内の市場規模は約10兆円。グローバル市場の約8%が日本市場、ということになる。ただ、国内市場の成長率は減少に転じる、もしくはすでに減少傾向であり今後は「?」としている。
減少に転じている理由は、以下2つある。
- 薬価の見直し(値下げ)
- ジェネリック医薬品のさらなる拡大(ジェネリックは安い)
総括すると日本国内市場は今後、どんどん厳しくなってくるだろう。これまでのように先発医薬品メーカーが大きく稼げる時代ではなくなっている。また、米国研究製薬工業協会は「日本市場は2025年までに3割減となる」との試算を発表している。
※データ出所:アステラス製薬のホームページ
医薬品・製薬業界の現状②企業ランキング
つづいて製薬業界(=医薬品業界)の現状を解説。
製薬業界の売上ランキング-国内2015年度
※HD=ホールディングスの略
- 売上1.8兆円|武田薬品工業
- 売上1.3兆円|アステラス製薬
- 売上1.1兆円|大塚HD
- 売上9864億円|第一三共
- 売上5479億円|エーザイ
- 売上4917億円|中外製薬
- 売上4317億円|田辺三菱製薬
- 売上4032億円|大日本住友製薬
- 売上3430億円|協和発酵キリン
- 売上3099億円|塩野義製薬
- 売上2901億円|大正製薬ホールディングス
- 売上1952億円|参天製薬
- 売上1670億円|ロート製薬
- 売上1618億円|久光製薬
- 売上1602億円|小野薬品工業
- 売上1435億円|日医工
- 売上1234億円|沢井製薬
- 売上1194億円|キョーリン製薬HD
- 売上1126億円|ツムラ
- 売上1097億円|科研製薬
2015年度の売上ランキングをみると、なじみのあるメーカーが並ぶ。
とくに売上の大きい武田薬品工業、大塚HD、アステラス製薬、第一三共、エーザイのことを「製薬メーカー大手5社」と呼ぶ。
注目のジェネリック医薬品メーカーである沢井製薬、日医工ほかは毎年すごい勢いで伸びているものの今後の先行きは不透明(理由については後述)。
製薬業界の売上ランキング-世界2015年度
最新2016年度の世界ランキングはこちら→【2016年】製薬会社の世界ランキング売上TOP15
- 471億ドル|Novartis(ノバルティス・スイス)
- 457億ドル|Pfizer(ファイザー・米)
- 391億ドル|Roche(ロシュ・スイス)
- 364億ドル|Sanofi(サノフィ・仏)
- 360億ドル|Merck & Co.(メルク・米)
- 323億ドル|Johnson & Johnson(ジョンソン&ジョンソン・米)
- 295億ドル|GlaxoSmithKline(グラクソスミス・英)
- 260億ドル|AstraZeneca(アストラゼネカ・英)
- 244億ドル|Gilead Sciences(ギリアドサイエンシズ・米)
- 204億ドル|武田薬品工業
- 202億ドル|AbbVie(アッヴィ・米)
- 193億ドル|Amgen(アムジェン・米)
- 183億ドル|Teva(テバ・イスラエル)
- 172億ドル|Lilly(リリー・米)
- 158億ドル|Bristol-Myers SquibbLilly(米)
※Johnson & Johnsonは医薬品事業の売上のみ
いっぽうで世界売上ランキングをみると武田薬品工業がギリギリTOP10で、その他の日系メーカーはランク外。西洋医学の発祥がもともとヨーロッパ、アメリカであるため仕方ない。現在でもヨーロッパ系、アメリカ系メーカーが強い市場である。
そんな中、注目はイスラエルのジェネリック医薬品メーカーのTeva(テバ製薬)、世界ランキング13位。ジェネリック医薬品の勢いを物語っている。ちなみにTevaは、日本では武田薬品工業との合弁会社「武田テバファーマ株式会社」を運営している。
製薬業界の課題&動向①先発医薬品メーカー
つづいて製薬業界(=医薬品業界)の課題を解説。まずは先発医薬品メーカーの課題と動向を述べていく。
①ハイリスク & ミドルリターン
医薬品・製薬業界の課題は明白で「ハイリスク&ミドルリターン」であること。これは課題というより「製薬業界とはそういうものだ」と言われればお終いではあるが…。
10年くらい前まで製薬業界は「ミドルリスク&超ハイリターン」のビジネスであったが、最近では「ハイリスク&ミドルリターン」という状況に変わってきているように思う。
このように語る理由には大きく以下5つある。
- 新薬の開発難易度はどんどん上がっている
- それにともないR&Dコストも上がっている
- 各国の法規制(薬事法みたいなやつ)はどんどん厳しくなっている
- ジェネリックメーカーの台頭によって「新薬で稼げる期間」が短くなっている
- 日本国内では「高すぎる薬価」が問題となっており、薬価制度の改定のたびに値下げさせられている
アステラス製薬の会長談によると「製薬会社の開発費あたりの新薬創出数は徐々に少なくなっている。今は10億ドルの開発費をかけても新薬を1つ生み出せるかどうかという時代になった」とのこと。つまり「ハイリスク&ミドルリターン」ということであり、今後も明るい材料は少ない。
→出所:日本経済新聞
②医療制度の改革で薬価下がる
これは日本国内限定の話ではあるが…。国はどんどん膨張し続ける医療費の国家予算をなんとか下げなければいけない。こうして薬価が引き下げられることになったが、製薬メーカーにとってはツライ状況。
国は医療費の削減がすすまない理由を「高すぎる薬価」にあるとして、
- 薬価の大幅引き下げ
●とくに特許切れの医薬品に関して、薬価を大幅に改定
●さらに2015年末の「時期薬価制度改定の骨子(案)」では新薬も大幅に値下げされる可能性がある
●医療費の削減が進まなければさらなる薬価制度の改定(値下げ)もあり得る - ジェネリック医薬品の導入
●2020年末に数量ベース80%目標 - 医者への過剰接待の禁止
●製薬メーカー自体のコスト削減、正常な市場競争が目的
などをゴリ押ししてきた。この改革は道半ばであり、今後も先発製薬メーカーにとって苦しい状況となるだろう。
それでもまったく国の予算は減らず、むしろ増え続けている状況。
そこで2015年末には厚生労働省が「時期薬価制度改定の骨子(案)」を提出。製薬メーカーへの攻撃にでている。その内容がヤ○ザとしか思えないほど製薬メーカーにとってかわいそうな内容なので、シンプルにまとめておく。
※薬価制度に基づいて新薬の値段はきまる。
- 年間売上1000~1500億円の医薬品
+
かつ想定売上の1.5倍以上 → 薬価をMax25%下げる - 年間売上1500億円~の医薬品
+
かつ想定売上の1.3倍以上 → 薬価をMax50%下げる
ようは「従来の薬価制度をきびしくして、予想を超えた大ヒット商品ほど大幅値引きするよ」というもの。本来、画期的な新薬であれば値段なんて1個100万円だっていいと思う。ところが値段の決定権を、薬価制度により国に握られているのが製薬メーカーのツライところ。
今まで「厚生労働省 ⇔ 製薬メーカー」の関係はズブズブだったが、流石にマズイ状況であるため官僚も厳しくし始めた。これは課題というより、もはや避けられない「運命」といってもよい。総括すると今後、製薬メーカーにとって厳しい状況はつづく。
③大型薬の特許ぎれ(2010年問題)
2010年問題とは、1990年代後半に上市された大型新薬が、2010年前後でつぎつぎに特許切れになるという製薬メーカー独特の問題。
過去の話ではあるが、世界の製薬メーカー大手は「2010年問題」によって大型薬がジェネリックに置き換わり、多少なりとも利益と売上を落とした。
そこで「売上・利益の減少をカバーするにはM&Aしかない!!」
となって現在のグローバルM&A合戦(業界再編)時代にいたる。
日本に限らず世界の製薬大手はすべて同じ作戦をとっている。単純というか、分かりやすいというか、バカ正直というか…。私なら漢方薬メーカーを買うんだけどなぁ…。
製薬業界の課題②ジェネリック医薬品メーカー
いっぽうでジェネリック医薬品メーカーの課題も明白。
それは
「誰にでも作れるため、すぐ競争過多になる」
という点に尽きる。
国内外の大手製薬メーカーはすでにジェネリック医薬品の製造をスタートしているし、新規参入もどんどん出てくる。そうすると市場原理で必ず価格崩壊し、おわる(薬価制度があるため価格は変えれないのだけど、市場原理は必ず働く…)。
そうすると最後には体力のあるメーカー、もしくは業界再編して大きくなったメーカーだけが残る。この流れは今後20年以内に確実におきると私は予測する。
韓国メーカーが日本の猿マネをしてはみたものの結局、中国に奪われて失敗した経験。それと同じことをジェネリック医薬品メーカーは今後、経験するであろう。
したがって「今のところ急成長している企業であっても、すぐにポジションを失う可能性がある」という点にはご注意ください。