つづいて製薬業界の主なリストラニュース。中堅以上のメーカーをピックアップしたが、中小はもっとひどいだろう。またリストラは職種をとわずに行われるため、MRであろうと、工場ワーカーであろうと、研究開発職であろうと変わらない。
- 田辺三菱製薬
– 45歳以上を対象に早期退職募集、634人が応募(2016年) - エーザイ
– 45歳以上を対象に早期退職募集(2013年) - 第一三共
– 35歳以上を対象に早期退職募集、513人が応募(2014年) - 大日本住友製薬
– 45歳以上を対象に早期退職募集、対象1200人以上 - 武田薬品工業
– 正式には発表されないものの、水面下でリストラしている(2013年~) - グラクソ・スミスクライン、サノフィ、ノバルティス(外資系)
– 早期退職プログラム実施、詳細は未定(2015年)
リストラはまだ始まったばかりであり、今後も定期的に行われていくだろう。これほどあからさまに大リストラを実施する業界も珍しい。リーマンショック直後の電機メーカーと似たような状況である。
就活・転職者するにあたり、十分に注意しておきたいところだ(40代まではリストラされる心配はないけど)。
【参考】製薬業界バブルと2010年問題、その後
まず、2010年問題の前まで製薬業界は完全にバブルだった。でも今は苦しい状況になっている。そこで各社の業績を過去 vs. 現在でくらべてみよう。
※過去の数字は「日本会計基準」、2016年の数字は「国際会計基準」であるため単純比較はできないが傾向はみてとれる。
武田薬品工業の業績推移
2006年3月 | 2016年3月 | 増減率 | |
売上 | 1兆2122億円 | 1兆8073億円 | 149% |
当期純利益 | 3132億円 | 801億円 | ▲74% |
自己資本比率 | 77% | 53%* | 激減 |
平均年収 | 959万円 40.0歳 |
953万円 39.0歳 |
横ばい |
*2014年決算期の数字
武田薬品工業は製薬業界の2010年問題でもっとも利益が減るといわれていたメーカー。マーケットの予測どおりここ10年で当期純利益は7割減…。海外のM&Aで売上は増えているものの、「買収したときの、のれん代」が重いため純利益は少ない。自己資本比率の激減も買収の影響。
今後、買収した企業の成果がどれくらいでるのか?で勝負は決まる。
第一三共の業績推移
2006年3月 | 2016年3月 | 増減率 | |
売上 | 9259億円 | 9864億円 | +7% |
当期純利益 | 877億円 | 823億円 | ▲6% |
自己資本比率 | 78% | 52%* | 激減 |
平均年収 | 976万円 39.7歳 |
1092万円 43.0歳 |
横ばい ~微増 |
*2014年決算期の数字
第一三共は、売上も利益もほとんど10年前と変わらず。インドのジェネリック医薬品メーカー、ランバクシーの買収失敗が痛すぎる。買ったはいいものの利益を出せず、買値の半額で売却した。
この買収失敗により自己資本比率は大きく下がった。
アステラス製薬の業績推移
2006年3月 | 2016年3月 | 増減率 | |
売上 | 8793億円 | 1兆3727億円 | +56% |
当期純利益 | 1037億円 | 1309億円 | +26% |
自己資本比率 | 77% | 73%* | 横ばい ~微減 |
平均年収 | 945万円 39.3歳 |
1068万円 42.3歳 |
横ばい ~微増 |
*2014年決算期の数字
アステラス製薬はここ10年で躍進するも、売上の割には利益が伸びていない。
大塚製薬の業績推移
2009年3月 | 2016年12月 | 増減率 | |
売上 | 9559億円 | 1兆1955億円 | +25% |
当期純利益 | 470億円 | 925億円 | +97% |
自己資本比率 | 62% | 75%* | 増加 |
平均年収 | 1196万円 43.0歳 |
1078万円 44.5歳 |
減少 |
*2014年決算期の数字
大塚製薬もココ10年で躍進。とはいえ元々が悪すぎただけかも。
エーザイの業績推移
2006年3月 | 2016年12月 | 増減率 | |
売上 | 6012億円 | 5479億円 | ▲9% |
当期純利益 | 634億円 | 549億円 | ▲13% |
自己資本比率 | 70% | 54%* | 激減 |
平均年収 | 1093万円 42.1歳 |
1093万円 43.8歳 |
横ばい ~微減 |
*2014年決算期の数字
エーザイはここ10年で売上、利益、自己資本比率ともに凹んでいる。製薬大手5社でもっとも将来性を心配されている製薬メーカー。
総括すると「悪いながらも、それなり」
製薬メーカーの決算数字をみていると、悪い悪いと言われながらも、それなりにやっていることが分かる。ただし気になるのは、大型M&Aを実施した企業における自己資本比率の低下。
具体的には武田薬品工業、第一三共、エーザイ。買収が失敗だとなったらヤバイ状況になる。第一三共はすでに売却し、清算しているから問題なし。
いっぽうで大型買収をしてこなかった大塚製薬、買収した企業が成長軌道にのったアステラス製薬は躍進。ただし大塚製薬は2015年、米アバニアを買収(約4200億円)しているため、成果がでなければ一気にヤバイ状況になることもあり得る。
結局のところ、
先発医薬品メーカーの今後は「買収した企業がどうなるか?」「新薬をどれだけ生み出すか?」にかかっている。
製薬業界の今後 – 一般用医薬品(OTC)メーカーはOK
一般用医薬品メーカーとは日用品なのか医薬品なのか、よくわからないモノを作って売っているメーカー。商品にはたとえば、湿布、処方箋なしで買える風邪薬・胃腸薬などあり。
大衆薬品メーカー、OTC(Over the Counterの略)と呼ばれたりもする。
この分野には、ロート製薬、エスエス製薬(OTC専業)、興和(半分は商社)などが中堅以下クラスで有名ではあるものの、大企業であればひととおりやっている。あくまで大手製薬メーカーにとってはサイドビジネスにすぎない。
たとえば、
武田薬品はアリナミン・シリーズで有名、久光製薬なら発布剤、第一三共は子会社にOTCとセルフメディケーションを専業とする「第一三共ヘルスケア」をもつ。
ちなみに国内市場規模は年間8000億円(2015年)であり、医薬品の国内市場規模10兆円に比べるはるかに小さい。
ニッチであまり大きく儲からない市場だからこそ、
一般用医薬品(=OTC)分野のメーカーは決して大きく儲かることはないが、大きく凹むこともないだろう。化学メーカーと同じように安定している。あとは海外市場をどこまで攻略するかで、企業の命運が決まる。
※ただし年収や待遇は、同規模の化学メーカーと同等…。
製薬業界の今後 – 結局は誰にもわからない
製薬業界は今、変革期にいる。
いろいろと偉そうに語ってみたが結局、「製薬業界の数年後はだれにもわからない」という状況。それは日系メーカーの中期経営計画をみているとすぐにわかる。
製薬大手5社(武田薬品、アステラス、大塚製薬、第一三共、エーザイ)はいずれも数字目標をかかげるのを止めたのだ。
通常であれば「2020年の売上目標3兆円、営業利益3000億円」みたいな数字から入るのだが…。それがどこにも見あたらない。
つまり「製薬業界は3年後のことすらも分からない。だから中期経営計画では売上目標をかかげるのがバカらしい。や~~めた」という状況になっているのだ。
今後の鍵をにぎっているのは「薬価制度の改定」「買収した企業の収穫に入れるか?」ということだろう。
筆者の個人的な意見
私の考える、製薬業界の将来性(20年後〜)は以下のとおり。
●先発医薬品メーカーは、
「悪いながらも何とか生き残っている(ただし業界再編による合併あり)。そして20年後には特別に素晴らしい業界ではなくなっている。年収・待遇・雇用の安定という面では、他業界のメーカーと同じレベルになる予定」
●ジェネリック医薬品メーカーは、
「ジェネリックに本格参入した製薬大手に敗北し、国内には最大10社までしか残らない」
●一般用医薬品メーカーは、
「普通にどの企業も、現状維持あるいは海外展開を成功させて生き残っている」
●バイオ医薬品メーカーは、
「成功する企業が何社かでてきて大手に買収される。そのとき、たくさん株を持っていれば一攫千金を狙える。確率は低いが…」
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