目上の人に「おっしゃる(仰る)通りです」は失礼?
まず結論として「おっしゃる通りです」は目上の人にメールなどで使っても失礼ではありません。「おっしゃる通りですね」「おっしゃられる」は敬語として間違っています。ご留意ください。
その理由と注意点、「言う」の敬語の種類について、記事中にまとめます。
目上の人に「おっしゃる通りです」は失礼?
まず結論として「おっしゃる通りです」は目上の人に使っても敬語としてOKです。
その根拠は3つあります。
- 「おっしゃる(仰る)」は「言う」の尊敬語
- 「通りです」は、同調するとき、何かに倣うときに使う。
たとえば「その通りです」「下記の通り」などで使われる。 - 上記を併せると「おっしゃる通りです」は「意見に同意します」という意味の敬語
「言う」には2パターンの尊敬語があり1つは「おっしゃる」、2つめは「言われる」です。ちなみに謙譲語は「申す」「申し上げる」です。
これを考えると「上司の言う通りです」の敬語は「上司のおっしゃる通りです」「上司の言われる通りです」の2通りがあります。
どちらを使っても間違いではありませんが「言われる」は受け身系との勘違いを生みやすいので、私は「おっしゃる」の方を使います。どんなビジネスシーンで使われるのか?NG例と併せて見ていきましょう。
目上の人へのNG例
例文にまとめますが「おっしゃる通りですね」は「ね」が不要。
「ね」は「〜ですよね?」という同意を求めるとき、「すごいね!」で使われる感動、「彼は天才ですね」で使われる自分の考えを伝える、などの意味があります。ここでは自分の主張を強めるために使われるのでしょうが、余計な一語です。
◎おっしゃる通りです。
◯おっしゃる通りでございます。
◯言われる通りです。
×NG おっしゃる通りですね。(「ね」は不要)
「おっしゃる通りです」を使ったビジネス会話例
意味を考えると「おっしゃる通りです」は相手に同意するときに使います。
たとえばビジネスシーンでは、こんな会話で使われますね。
上司「さっきから言い訳ばっかりだけど、それって本来やるべき仕事ができてないだけじゃないの?」
部下「おっしゃる通りです。申し訳ありません、以降気をつけます。」
※この場合「おっしゃる通りです」はスキップし謝罪だけでもよい
誰かの言葉を借りる時にも使います。
あなた「部長のおっしゃる通り、これから伸びるアフリカ市場に専属の営業担当を置くべきだと考えます。その理由は…。」
※上司の意見に「同意する」意味で使う
社内だけでなく、取引先との商談でも使います。
顧客「◯◯さんの主張されている値下げ幅は、最近の原料背景を考えると少なすぎますねぇ…。」
あなた「おっしゃる通りです。申し訳ございません。ただ、◯◯という背景でこれ以上の値下げは難しい状況でして…。どうかご了承ください。」
※顧客の意見に「同意する」意味で使う。この場合「おっしゃる通りです」はスキップしお詫びだけでもよい
「おっしゃる通りです」はメールに使える?
「おっしゃる」は「言う」の尊敬語ですから、メールなどの文章で使うのには抵抗がありますね…。
ただ、メールの受け手に意図が伝わるので、使い方として間違いとは言い切れません。
こちらも論理立てて解説しましょう。
- 「おっしゃる」は「言う」の尊敬語(敬語)
↓ - メールの文章を「言う」と表現するのか?
↓ - 普通はメールを「書く」と表現する
↓ - でも受け手には「おっしゃる通りです」で意図が伝わる
↓ - だからメールで使っても大丈夫
メールの受け手に意味は伝わりますが、もっと相応しい表現がありそうです。そこで、注意点と言い換え表現をまとめておきます。
「おっしゃる通りです」を使うときの注意点
注意点①目上の人に使っても失礼ではない
くどいですが「おっしゃる通りです」は「言う」の尊敬語です。目上の人に使っても失礼に当たりません。繰り返しになりますが、以下のNG例だけを避けて正しく使いましょう。
◎おっしゃる通りです。
◎はい、そうです。(言い換え)
◯おっしゃる通りでございます。(社内だとかしこまりすぎ、社外むけにはOK)
◯言われる通りです。(受け身との勘違いを生みやすい)
×NG おっしゃる通りですね。(「ね」は不要)
「◎」の表現は社内外に使える丁寧な敬語。
「◯」の表現は、あまり一般的ではないですが、使う人もいます。
注意点②「おっしゃられる」は二重敬語なのでNG
「おっしゃられる」は、言うの尊敬語「おっしゃる」と、尊敬語「〜られる」を組み合わせてしまっているので、二重敬語となりNG。
※二重敬語とは、一つの単語に同じ種類の敬語を二回使うことで、マナー違反です。
注意点③「社内の人がおっしゃいました」を社外の人へ使うとNG
ビジネスシーンにおける敬語の使い方の基本として、「社外では社内の人のことを敬った表現は使わない」というルールがあります。たとえば、社内の加藤部長の名前を社外に出すときは「弊社の加藤が・・・」とし、必ず呼び捨てにします。
それと同じで「社内の人がおっしゃいました」は社内の人に敬語をつけていることになりNG。「社内の人が言いいました」「社内の人が申しておりました」とします。
注意点④言葉を続ける
使い方の例で示した通り、「おっしゃる通りです」はこちらに何か不備がある場合に多く使われます。
したがって「おっしゃる通りです」でまずは自分の非を認め、そこから謝罪や自分の主張につなげるというのが正しい使い方ですね。
「おっしゃる通りです。申し訳ありません、以降気をつけます」や「おっしゃる通りです。失礼いたしました」など、一連の流れとして使いましょう。
※これは何かの指摘事項があった場合だけです。
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ここまでで、「おっしゃる通りです」の使い方は完了です。ここからはもっと基礎的な「言う」の敬語について語ります。ご興味のある方だけどうぞ。
「言う」の敬語の種類と使い方
「言う」の尊敬語、謙譲語、丁寧語の3パターンで例文と使い方を考えます。
①尊敬語「おっしゃる」「言われる」
「言う」を尊敬語にすると「仰る、おっしゃる」「言われる」の2種類があります。過去形は「仰った、おっしゃった、おっしゃりました」「言われた」です。
ただし丁寧語「です・ます」をつけて使うことが普通ですので、そうすると現在形は「おっしゃります、おっしゃいます」「言われます」。過去形は「おっしゃりました、おっしゃいました」「言われました」となります。
※最近では「おっしゃりました」よりも「おっしゃいました」の方が一般的です。理由はよくわかりません、すみません。
例)部長が「ビール飲みたい」とおっしゃいました。
ちなみに丁寧度の高い順に並べると、
「おっしゃいました ≒ 言われました > おっしゃった ≒ 言われた > 言った」
となりますのでご留意ください。
使い方は、尊敬語ですから先輩や上司といった目上の人に対する敬語として使います。
よくある間違いとして「おっしゃられる」があります。尊敬語「おっしゃる」にさらに、尊敬語「〜られる」を使用すると、二重敬語にあたりNGですので、ご留意ください。
- NG例)部長が「コーラ飲みたい」とおっしゃられました。
正解例としては、普通に「言う」を尊敬語にし、丁寧語「です・ます」をくわえ「おっしゃいました」とします。
- 正解例)部長が「コーラ飲みたい」とおっしゃいました。
また、社外の人を前にして先輩や上司のことを言うときには「謙譲語または丁重語」を使います。社外の人を前にして尊敬語「上司がおっしゃっていました」と使うのはNGです。
- NG例)社外の人を前にして「私の上司が値上げするようおっしゃいまして…」
社外の人の前で先輩や上司の話をするときには、謙譲語を使います。
- 正解例)社外の人を前にして「私の上司が値上げするように申しておりまして…」
他にも目上の人に使うことを想定し例文を作成しましたので、ご参照ください。
◎部長が「ビッグマックを買ってこい」とおっしゃいました。
◎部長が「ここで待て!」とおっしゃいました。
◯部長が「ビッグマックを買ってこい」とおっしゃった。(一般的でない)
◯部長が「ここで待て!」とおっしゃった。(一般的でない)
×NG 部長が会議で「値上げする!」とおっしゃられた。(「おっしゃられる」は二重敬語)
②謙譲語「申す」「申し上げる」
「言う」を謙譲語にすると「申す」「申し上げる」の2種類があります。過去形は「申した」「申し上げた」です。
ただし丁寧語「です・ます」をつけて使うことが普通ですので、そうすると現在形は「申します・申し上げます」。過去形は「申しました・申し上げました」となります。
ちなみに丁寧度の高い順に並べると、
「申し上げます ≒ 申します > 申し上げる ≒ 申す > 言う」
となりますのでご留意ください。
「申す」「申し上げる」は謙譲語ですから、自分の発言に対して謙る(へりくだる)ときに使います。ビジネスシーンでは、社外の人を前にして、自分のことを話すときですね。
- 正解例)先ほど申し上げましたように、こちらは限定商品となっております。
また、社外の人を前にして、上司が発言していたことについても、自分の発言と同様に「申す」を使います。
社外の人の前では、上司・先輩のことであっても謙譲語または丁重語を使います。
- 正解例)弊社の斎藤が、◯◯様にお会いしたいと申しておりまして…。
「おっしゃる」のところで解説しましたが、社外の人を前にして先輩や上司のことを言うときには「謙譲語または丁重語」を使います。
社外の人を前にして尊敬語「上司がおっしゃっていました」と使うのはNG。
- NG例)社外の人を前にして「私の上司が値上げするようおっしゃいまして…」
他にも目上の人に使うことを想定し例文を作成しましたので、ご参照ください。
使い方は、自分の発言に対して、立場を下げて相手に敬意を表するために使います。
例)このたびの商品欠陥に関しまして、深くお詫びを申し上げます。
ただし例外もあり、社内の人が発言していたことについても、自分の発言と同様に「申す」を使います。
例)弊社の斎藤がお会いしたいと申しておりまして…。
◎心よりお詫びを申し上げます。
◎心よりお礼を申し上げます。
◎お悔やみを申し上げます。
◎先ほど申し上げましたように、
◎先ほど申しました通り、
◯先ほど申した通り、
◯先ほど申し上げた通り、
×NG 部長が会議で「値下げする!」と申した。(「申す」は自分の発言に対して使う)
×NG 先ほど申し上げられました通り、(自分の発言に対して使う)
③丁寧語「言います」
もっとも馴染みのある、丁寧語「です・ます」口調を使うと「言います」となります。過去形は「言いました」ですね。普段から使う表現ですので、注意点は特にありません。