「拝読させていただく」が二重敬語でなく正しい理由

「拝読させていただく」は間違い敬語?二重敬語?

とご心配のあなたへ。

「拝読させていただく」は100%正しい敬語ではあるものの、使い方によって変な日本語になるときがあり注意が必要です。※根拠は本文にて解説。

正しい使い方にはたとえば、

  • 【例文】(上司あての)手紙を拝読させていただきました。
  • 【例文】(上司の)ツイートを拝読させていただきました。

などあり。

あるいはまぁ許容される範囲の使い方にはたとえば、

  • 【例文】xx先生の新著を拝読させていただきました。
  • 【例文】xx教授の論文を拝読させていただきました。

などあり。※それぞれの根拠は本文にて。

意味は直訳すると「読ませてもらいました」。

読むことにたいして上司なり目上など相手の許しを得なければいけない時に「恐れ多くも読ませてもらったけど、許してね」「読ませてもらったけど、いい?」のようなニュアンスでつかいます。

いっぽうで。

ちょっと日本語が変じゃないのか?と思われるような使い方にはたとえば、

  • 【日本語が変】WEB上に公開されている技術資料を拝読させていただきました。
  • 【日本語が変】ブログ記事を拝読させていただきました。

などあり。こんなシーンでは「拝読しました/拝読いたしました」とするのが妥当です。なぜこれらの使い方が日本語としておかしいと感じるのか、その根拠については本文にて。

それでは「拝読させていただく」が正しい敬語である理由とビジネスメールでの使い方、例文を紹介します。

※長文になりますので、時間の無い方は「見出し」より目的部分へどうぞ。

「拝読させていただく」が二重敬語ではなく正しい理由

「拝読させていただく」「拝読させていただきました」は二重敬語ではありませんし間違い敬語でもありません。正しい敬語です。

なぜなら謙譲語「拝読」を「拝読させてもらう」というように動詞にしたうえで「もらう」の部分に謙譲語「いただく」を用いているから。

さらに丁寧語の過去形「ました」をくっつけると「拝読させていただきました」という敬語になります。

ただ。

これではあまりにも乱暴なので誰もが理解できるようにくわしく解説していきます。

“拝読”は名詞であり動詞にする必要あり

敬語を正しく理解するために中学生レベルの日本語文法をすこしだけ復習します。

「拝読」は「読むこと」の意味の謙譲語と考えることができますが品詞は名詞です。このままではほとんど文章には使えません。

たとえば「資料を拝読ました」「本を拝読ました」では意味不明な文章になりますよね?

そこで。

「読む」という意味にするには「する」をくっつけて「拝読する」とします。あるいは「読ませてもらう」という意味にするには「拝読させてもらう」とします。

漢語や外来語の名詞に動詞「する」をくっつける用法はほかにも「返答する」「連絡する」「報告する」などいろいろあり。

“①読むこと②させてもらう”に謙譲語を使っているから正しい

で。

果たしてなぜ中学生レベルの復習が必要だったのかというと…

  1. 「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「させていただく」=「させてもらう」の意味の謙譲語

がそれぞれ別の単語であることを理解するためです。

これが分かればすでに正解にたどり着いています。

「①読むこと」「②させてもらう」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

ようするにビジネスメールでよく使う以下の敬語と同じことなのです。

  • ご一緒させていただきます
    “①一緒”に謙譲語「ご」で「ご一緒」
    “②させてもらう”を謙譲語「させて頂く」に変換し丁寧語「ます」で「させて頂きます」
  • ご挨拶させていただきます
    “①挨拶”に謙譲語「ご」で「ご挨拶」
    “②させてもらう”を謙譲語「させて頂く」に変換し丁寧語「ます」で「させて頂きます」

もし「拝読させていただく」が二重敬語になるのであれば「ご挨拶させていただく」も二重敬語になりますよね??

ところが実際にはどれも正しい敬語でありビジネスメールによく使われます。

【補足】そもそも二重敬語とは?

二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。

よくある二重敬語としては「お伺いする」「お伺いいたす」があります。

なぜこれらが二重敬語なのかというと…

  • 「行く/聞く/たずねる」を謙譲語にして「伺う」
  • さらに謙譲語「お~する」「お~いたす」

もとになる語「行く/聞く/たずねる」に謙譲語「伺う」をつかい、さらに謙譲語「お〜する」「お〜いたす」を使っています。

「伺う」は動詞であるために名詞「拝読」と違い「~する・~いたす」という動詞をくっつけることが日本語として既におかしい訳ですが…

まぁいずれにせよ二重敬語なので間違いです。ひとつの語に同じ種類の敬語を2回つかうことが二重敬語であり、敬語のマナー違反になります。

【使い方】拝読させていただく

つづいて「拝読させていただく」の使い方について。敬語としては正しいものの、使い方を間違えるとヘンテコな日本語になりますので十分にご注意ください。

①正しい使い方:読むことに対して相手の許可が必要なシーン

「拝読させていただく」の意味は「読ませてもらう」ということですから、読むことにたいして上司なり目上の許可を得なければいけないときにつかいます。※例外あり

たとえば。

(上司あての)手紙を拝読させていただきました。」としたとき。他人宛の手紙というのはプライバシーにかかわる情報が満載であるため本来であればヒトに読ませるようなものではありません。それをあなたが黙って読んだとしたら、これはもう相手に謝罪しなければいけない事態です。あるいは上司に頼んでもないのに見せつけられたにせよ、上司のプライバシーにかかわる部分を「悪いけど読ませてもらった」ということになります。

したがってそんなときに「悪いけど手紙を読ませてもらったよ、許してね」というニュアンスで「拝読させていただく」をつかっても丁寧です。

(上司の)Twitter投稿を拝読させていただきました。」としたとき。上司のtwitter投稿というのは公開されているものにせよ、プライベートに関わることです。上司がtwitterを大々的に自慢しているわけでないのでしたらプライバシーにかかわることです。そんなときには「twitter投稿を読ませてもらったよ、許してね」というニュアンスで「拝読させていただく」をつかうのも正しい日本語の使い方です。

②まぁ許容される使い方

あとはまぁ許容される使い方として。

○許容範囲先生の著書を拝読させていただきました。」とした場合。先生としては誰かしらに読んでもらうために本を書いているわけです。それなのにこの使い方だと「悪いけど新著を読ませてもらったよ、許してね」というようようなニュアンスになります。

でもまぁ、こう言われて悪い気はしないのでつかってもOKです。完全に相手次第ですね。言葉はロジックでは言いあらわせない何かがあります(完全に逃げ)。

あるいは。

許容範囲xx教授の論文を拝読させていただきました。」としたとき。先生としては誰かしらに読んでもらうために論文を書いているわけです。ただ、ひょっとしたらあなたには読んでほしくないような恥ずかしい内容である可能性もあります。はたまた、別になんとも思ってないかもしれません。

本当のところは本人にしかわかりません。従ってそんなときに「教授の論文を読ませてもらったよ、許してね」というニュアンスで「拝読させていただく」をつかってもまぁ間違いではありませんね。

結局のところ、こう言われて悪い気はしないのでつかってもOKです。

③ヘンテコな日本語になる使い方

ところが。

×ブログ記事を拝読させていただきました。」とした場合。私としては誰かしらに読んでもらうために記事を書いているわけです。それなのにこの使い方だと「記事を読ませてもらったよ、許してね」というようようなニュアンスになります。

もし私のブログが極秘情報や会社のスキャンダルで埋められていて誰にも読まれたくないようなものであれば、「記事を拝読させていただきました」でもまぁよいでしょう。ところが常識的にはそうじゃない訳です。

また。記事を読んでもらってありがたいのは私の方であり、むしろこっちからお礼をしなければいけないのに…「記事を拝読させていただきました」だと記事を書いている私の方がエライかのように感じてしまいます。

でも実際にはそうじゃない訳ですよね!?読者がお客様でありライターはサプライヤーであるハズ。

したがってこんな時には「記事を拝読しました/拝読いたしました」で十分に丁寧な敬語といえます。

あるいは。

×WEB上に公開されている技術資料を拝読させていただきました」とした場合。会社としてはお客さんなり誰かしらに読んでもらうために技術資料を公開しているわけです。それなのにこの使い方だと「悪いけど技術資料を読ませてもらったよ、許してね」というようようなニュアンスになります。

もし資料の内容がディープで誰にも見られたくないようなものであれば、「資料を拝読させていただきました」でもまぁよいでしょう。ところが常識的にはそうじゃない訳です。

したがってこんな時にも「拝読しました/拝読する」が妥当な日本語の使い方ということになります。

ただし相手によるし地域による

ただし。

上記はおっさん営業マンである私の勝手な価値観です。実際にはヘンテコな日本語の例文にあげたようなビジネスメールもしょっちゅうきますし、だからといって別にムッとしたりしません。

さらに地域ごとの差もあり関西人はなぜか「させていただく」というフレーズを多用します。

だからどれが正しいとか間違いとかは結局のところあまり気にしなくてもいいんじゃないかと思います。※普段のビジネスシーンにおいては、という話。

でもテレビとか公にでるような仕事をなさっている方はご留意ください。日本語を正しくつかえないとそれだけで頭悪そうに見えます。

【まとめ】シーン別の例文

例文にもしたとおり「拝読させていただく」はこのままでは使えません。「拝読させていただきます」などのように、より丁寧な敬語にする必要あり。

そこでビジネスシーン別につかえる例文を以下にて紹介します。

  • 現在「読ませてもらいます」としたい時
    【例文】拝読させていただきます。
  • 過去「読ませてもらいました」としたい時
    【例文】拝読させていただきました。
  • 希望「読ませてもらいたい」とする
    【例文】拝読させていただきたく存じます。
    【例文】拝読させてください。

※「いただく」は漢字表記「頂く」をつかってもOK

【注意点】”拝読”はこう使う!

つづいて「拝読」の使い方というか注意点について簡単に。

①立てているのは目の前の相手ではなく、著者!

「拝読」をつかうときの注意点その一。

「拝読」は著者なり資料を書いたヒトを立てるためにつかう敬語です。

NGとなる使い方にはたとえば。

×お客さんの前で自分の上司が書いた本を「拝読する」とするのは間違い。これだとお客さんではなく上司を立ててしまうことになります。

ポジションとしては「お客さん >> 上司」であるハズなので丁寧語だけをつかい「読みました」とするのが妥当です。

あるいは。

×上司の前で後輩の書いたレポートを「拝読する」というのも間違い。これだと上司ではなく後輩を立ててしまうことになります。「上司 >> 後輩」であるハズなので丁寧語だけをつかい「後輩のレポートを読みました」とするのが妥当です。

②”拝読する”は二重敬語!

「拝読」をつかうときの注意点その二。

もっとも初歩的な敬語の使い方なのですが…「拝読する」はNGです。

「拝読」はすでに「読むこと」の敬語(謙譲語)なのに、さらに謙譲語「ご」をくわえてしまっています…

結果として「読むこと」に①謙譲語「拝読」+②謙譲語「ご」としており二重敬語になりますね。※二重敬語とはひとつの単語におなじ種類の敬語を2回つかうことでありNGです。

あるいは。

「お(ご)~いたす」のひとかたまりを謙譲語として見たとき。「ご拝読する」でもいいんじゃないのか?とする意見もあります。ただ「~」の謙譲語が「お(ご)~する」だという解釈を適用した場合には「拝読」が謙譲語であるため、そもそも二重敬語ということになります。

③”拝読してください””拝読していただく”は間違い敬語!

「拝読」をつかうときの注意点その三。

こちらも初歩的な敬語の使い方なのですが…「読んでほしい!読んでください!」と言いたいときに「拝読してください!」は間違い敬語です。

「拝読」は謙譲語であるため自分の行為につかい相手の行為にはつかいません。

たとえば以下の使い方は間違い敬語となりNGです。十分にお気をつけください。

  • NG例×上司なり目上・取引先に拝読してください「添付のレポートを拝読してください」
  • NG例×上司なり目上・取引先に拝読していただく「お手元の資料を拝読していただけますか」

相手の行為には基本的に謙譲語ではなく尊敬語をつかいます。※例外あり

したがって相手に読んでほしいときには。

読むことの尊敬語「お読みくださる」や例外的に謙譲語「お読みいただく」をつかいます。またはシーンに応じて見ることの尊敬語「ご覧くださる」をつかってもOK。

以下のようにすると正しい敬語になりますね。

  • 正しい例◎「添付のレポートをお読みください」あるいは「ご覧ください」
  • 正しい例◎「まずはお手元の資料をお読みください」あるいは「ご覧ください」

いずれも上司なり目上・取引先に何かしら「読んでください・読んでほしい」といいたいときに使える敬語になります。

④”拝読いたします”は二重敬語ではない!

あとは注意点というよりもよくある敬語の勘違いについて。

「拝読いたします」は二重敬語だから誤りだという意見もあります。ただし答えは二重敬語ではなく100%正しい敬語です。

なぜ「拝読いたします」が間違い敬語のように感じてしまうかというと…

「拝読」はすでに謙譲語であり、さらに「する」の謙譲語「いたす」をつかって「拝読いたす」としているから…

「拝読=謙譲語」×「いたす=謙譲語」

「拝読いたします」は「謙譲語 x 謙譲語」だから二重敬語??

このようなロジックで二重敬語だという意見がでてくるのかと。

ただし答えは…「二重敬語ではない」です。

二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。

たとえば「お伺いいたす」「お伺いする」などが二重敬語の例。「行く・尋ねる」の謙譲語「伺う」をつかっているのに、さらに「お〜いたす」「お〜する」という謙譲語をつかっているためです。

ところが。

「拝読いたす」は以下のように「①読むこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

①「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)

②「いたす」=「する」の意味の謙譲語

くわしくは以下の記事にて。