AMOLED(アモレッド)とはActive Matrix Organic Light Emitting Diodeの略。日本語に直訳するとアクティブ・マトリックス有機発光ダイオードとなる。AMOLEDパネルまたはOLEDパネルは有機ELの技術を使って作られた製品であり、スマホ、テレビ、タブレットなどの画面に使われる。
AMOLEDパネルまたはOLEDパネルは、LCD液晶ディスプレイでは実現できなかった「曲げられるデザイン」を売りにしており、韓国Samsungの2010年発売以降の「Galaxy Sモデル」に全面的に採用されている。最近では中国の格安スマホで採用されている動きもあり今後の動向が気になるところ。
そこで今回はAMOLEDパネルとは何か、その構造・メーカー・メリット&デメリットを解説する。
そもそも有機ELとAMOLEDパネルの違いって何?
答え:有機EL=現象を指す、AMOLEDパネル=製品を指す
有機ELというのは光を発する現象につけられた名前であり、商品名ではない。OLEDは有機ELの仕組みを使って作られた製品のことを指す(化合物が光を発するライト)。そしてOLEDを使って作られたディスプレイがOLEDディスプレイということになる。さらにはOLEDディスプレイの中に、AMOLEDパネルとPMOLEDパネルという二つの製品が存在する。
たとえるなら世界(=有機EL)の中にアジア(OLED)があって、アジア(OLED)の中に日本(AMOLED)があるのと同じこと。消費者の観点からすると何も違わないのにAMOLEDやらOLEDやら有機ELやら…よくわからない英語ばかりが出現して戸惑ってしまう。
「これまでにない革新的な商品だ!!」とメーカー側がアピールするために新しい単語を使うため、どんどん専門用語が増えていく(苦笑)。
ちなみにAMOLEDパネルは韓国SamsungがGalaxy SモデルをPRするために使って広まった用語。AMOLEDとは関係ないが米アップル社の場合には「これまでにない高精細Retinaディスプレー搭載!!」がこれにあたる。←何の変哲もないLEDディスプレーなのだけど…
別にAMOLEDであろうとOLEDであろうとRetinaディスプレイであろうと、その価値をちゃんと説明してさえくれれば良いのだけど…素人に意味不明な専門用語を使って売るなんて霊感商法と同じじゃないか、といつも思う。
AMOLEDパネルとOLEDパネルの違い:構造・原理
※画像出所:Samsung GEEKS
先ほどOLEDもAMOLEDも有機ELの中に含まれるので何も違わないと言ったが…
SamsungによるとOLEDとAMOLEDの違いは、曲げられるかそうでないかにあると言っている。OLEDでは基板がガラスだがAMOLEDでは基板がフィルムになっている。ガラスは固くて曲げると折れてしまうが、フィルムなら曲げられる。このガラス→フィルムへの変更でAMOLEDは曲げられるようになった(本当はもっとややこしい。
ちなみにLG DisplayはどちらのディスプレイもOLEDという単語しか使っていない。どうでも良いことだが、Samsungはとにかく違いをアピールしたいらしい。
次に液晶ディスプレイとAMOLED、OLEDパネルの違いについて解説する。
AMOLED・OLEDパネルと液晶パネルの違い①構造・原理
画像左:LCD(液晶)ディスプレーの構造・原理
画像右:OLED、AMOLEDパネル(有機EL)の構造・原理
AMOLED(有機EL)パネルと液晶ディスプレイの違いは、どうやって色を出すかにある。有機ELの場合は自分で光を出す化学品(=有機EL、OLED)を使う。いっぽうの液晶は自分で光を出せないため、色をだすにはバックライトと液晶(Liquid Crystal)が必要になる。
※色とは光の種類のこと。光の種類=光の波長が違っているため青に見えたり赤に見えたりする。
液晶パネルよりもAMOLED、OLEDパネルのほうが構造がシンプルだから、薄くできるし、応答速度も速くなるし、電池も食わないし、コストも安くなる。ハズ…
※AMOLEDでは基板がガラスではなくフィルムになっているため「曲げられる」という特性を持つ(画像ではガラスと記載あるがAMOLEDはフィルム基板を用いる)。
AMOLED・OLEDパネルと液晶パネルの違い②メリット・デメリット
少し話が逸れたが液晶ディスプレイとの比較でAMOLED(有機EL)のメリット、デメリットを比較する。これは語りつくされているため、一般論にツッコミを入れていく。
メリット(一般論)
- 薄くできる
- 応答速度が速くなる
- 消費電力が少ない
- 色彩がキレイ
- 曲げられる(AMOLED)
▼本当は5.曲げられることだけ
デメリット(一般論)
- 値段が高い
- 焼き付きがおきる
- 小型ディスプレイはできるが大型化すると不良品ばかりになる
▼すべて本当
▼液晶パネルよりもAMOLED, OLEDパネルのほうが構造がシンプルだから、薄くできるし、応答速度も速くなるし、電池も食わないし、コストも安くなる。というのが一般論。
でも本当は今の液晶ディスプレイ技術を考えるとAMOLEDパネルのメリットは④曲げられることだけ。①~③は実際には液晶ディスプレイのほうが上か、同じくらいの性能である。デメリットは全て本当のこと。
だから価格が最重要になっているテレビのディスプレイには採用できない。で、仕方なく高値で売れて利益もとれるスマホ分野で拡大することにした。最終的にはご存知の通り、iPhoneとの違いを出そうとSamsung/Galaxyが無理やりデザイン性をPRし採用して今に至る。
そしてさらに2018年発売予定といわれる、iPhone8にAMOLEDパネルが搭載されるというウワサもある。こうなると現時点でAMOLEDパネルのまともなサプライヤーは韓国Samsungしかいないため独占供給となってしまい、米アップル社にとってはおもしろくないだろう。しかも前々からAMOLEDパネルが搭載されているGalaxyシリーズと一体どうやって差別化するのだろうか?
AMOLEDパネル、OLEDパネルのメーカー
世界市場シェアの高い順にAMOLEDパネルメーカーを並べていく。世界の2大メーカーがSamsungとLGで、他は弱小もしくは投資段階で成果がない。そもそもディスプレイ市場の95%~99%が液晶パネルであり、有機ELはまだまだこれから。売れなければ期待はずれに終わる可能性も十分にある。
- 韓国Samsung電子(サムスン)
▼いろいろなメーカーから事業を買収して今に至る。液晶ディスプレイも作っている。 - 韓国LG Display(エルジー・ディスプレイ)
▼液晶ディスプレイの大手でもある。 - 中国勢(投資段階で2018年以降に本格化か?)
▼中国は液晶ディスプレイの一大生産拠点でもある。 - 日本勢:シャープ・ジャパンディスプレイ。投資検討段階。
- 日本勢:ジェイオーレッド(JOLED)
▼産業革新機構、ソニー、パナソニック、ジャパンディスプレイが出資する合弁会社。次世代OLEDの開発を進めている。
AMOLED、OLEDパネルの採用実績
スマホやスマートウォッチといった小さいディスプレイでの採用がメイン。テレビむけはSamsungやLGが取り組んでいるが、何が液晶と違うのかまったく分からない。自社で設備をもっているため何とかして使わないとダメなのだろう。
なぜAMOLEDやOLEDが小型のディスプレイにしか適さないかというと、欠点は生産性の悪さにある。小型であれば比較的作りやすいが、大型にすると生産性が極端に落ちる。有機ELが水分に極端に弱いため少しでも含水してしまうとアウト。大きいパネルだとムラができたり工程で水分が入りやすい。結果、生産性が悪くなりコストが高くなる。
いっぽう小型パネルは生産の課題はそれなりにクリアし、さらには液晶と同じくらいのコストでいけるようになってきたらしいが…日東電工や住友化学がスマホ用・液晶パネルの値段を下げればそれで終わる。結局は「デザインの自由度」で押していくしかないのである。
スマホ:
Galaxy Sモデル(2010年以降すべて)、中国格安
スマートウォッチ:
Apple Watch、Galaxy Watch、LG Watch、他すべて
タブレット、テレビ他:
LGのテレビ(OLEDシリーズ)、Samsungのテレビ(OLEDシリーズ)、シャープ・パナソニックの一部商品
AMOLEDに関連する用語一覧
- LCD(Liquid Crystal Display)パネル=液晶パネル
- LED(Light Emitting Diode)=発光ダイオード、有機ELを生み出すきっかけとなった
- 有機EL(Organic Electro-Luminescence)=有機エレクトロルミネッサンス
- OLED(Organic Light Emitting Diode)=有機発光ダイオード
- AMOLED(Active Matrix Organic Light Emitting Diode)=アモレッド、有機ELの一種。
- PMOLED(Passive Matrix Organic Light Emitting Diode)=名称なし、有機ELの一種。AMOLEDと方式が違う
- FAMOLED(Active Matrix Organic Light Emitting Diode)=フレキシブル・アモレッド、曲げられるディスプレイ
まとめ
液晶パネルよりも有機ELパネルのほうが構造がシンプルだから、薄くできるし、応答速度も速くなるし、電池も食わないし、コストも安くなる。ということで注目を浴び続けてきながら、不発に終わってきたAMOLEDパネル。
構造がシンプルっていってもそれは、原理だけみたら確かにそうだけど実際の製造工程は全然シンプルじゃない。それに計算どおりの性能も出てない。原理通りの薄さも実現できない。課題を何とかしようとして膨大な時間とカネを投じてきたのだけど、液晶パネルはそうこうしている内にどんどん改良され、今では有機ELよりも良い性能を持っている。結局、AMOLED(有機EL)パネルを使うメリットが「デザインの自由度が上がる」ということだけになってしまった。
でも液晶パネルのほうが性能的には優れていても消費者はどういう行動にでるか、読めないから恐い…
仮にもしスマホやタブレットだけでも全てAMOLEDパネルに変わるとしたら、最も困るメーカーは日東電工で利益が3割くらい減るだろう。理由はiPhoneやその他のスマホ液晶パネルのために社運をかけてきたから。
※有機ELと液晶ディスプレイで光を出すための仕組みが違うということは、その先の仕組みもすべて変えないといけない。光を出す発光体を液晶から有機ELに代えておしまい、とはいかないのである。だから液晶から有機ELにディスプレイが変更されると、液晶ディスプレイで食べているメーカーたちは本当に困ってしまう。いっぽうで有機ELになると儲かるメーカーもある。