「拝見させていただく」は間違い敬語?二重敬語?
とご心配のあなたへ。
「拝見させていただく」は100%正しい敬語ではあるものの、使い方によって変な日本語になるときがあり注意が必要です。※根拠は本文にて解説。
正しい使い方にはたとえば、
- 【例文】ちょっとその電子タバコを拝見させていただきたいのですが…
- 【例文】それ新しいiPhoneですよね!?ちょっと拝見させていただきたいのですが…
- 【例文】部長のご自宅を拝見させていただきました。すばらしい庭園をお持ちですね!
などあり。
意味は直訳すると「見させてもらいました」あるいは「見させてもらいたい」。
見ることにたいして上司なり目上など相手の許しを得なければいけない時に「恐れ多くも見させてもらったけど、許してね」「見させてもらいたいけど、いい?」のようなニュアンスでつかいます。
いっぽうで。
ちょっと日本語が変じゃないのか?と思われるような使い方にはたとえば、
- 【日本語が変】貴社ホームページを拝見させていただきました。
- 【間違い】貴ブログを拝見させていただき、連絡いたしました。
- 【間違い】今朝の日経新聞にて拝見させていただいたのですが…
- 【間違い】テレビCMを拝見させていただきました。
- 【間違い】メールを拝見させていただきました。
などあり。こんなシーンでは「拝見しました/拝見いたしました」とするのが妥当です。なぜこれらの使い方が日本語としておかしいと感じるのか、その根拠については本文にて。
それでは「拝見させていただく」が正しい敬語である理由とビジネスメールでの使い方、例文を紹介します。
※長文になりますので、時間の無い方は「見出し」より目的部分へどうぞ。
この記事の目次
「拝見させていただく」が二重敬語ではなく正しい理由
「拝見させていただく」「拝見させていただきました」は二重敬語ではありませんし間違い敬語でもありません。正しい敬語です。
なぜなら謙譲語「拝見」を「拝見させてもらう」というように動詞にしたうえで「もらう」の部分に謙譲語「いただく」を用いているから。
さらに丁寧語の過去形「ました」をくっつけると「拝見させていただきました」という敬語になります。
ただ。
これではあまりにも乱暴なので誰もが理解できるようにくわしく解説していきます。
“拝見”は名詞であり動詞にする必要あり
敬語を正しく理解するために中学生レベルの日本語文法をすこしだけ復習します。
「拝見」は「見ること」の意味の謙譲語と考えることができますが品詞は名詞です。このままではほとんど文章には使えません。
たとえば「メールを拝見ました」「カタログを拝見ました」では意味不明な文章になりますよね?
そこで。
「見る」という意味にするには「する」をくっつけて「拝見する」とします。あるいは「見させてもらう」という意味にするには「拝見させてもらう」とします。
“①見ること②させてもらう”に謙譲語を使っているから正しい
で。
果たしてなぜ中学生レベルの復習が必要だったのかというと…
- 「拝見」=「見ること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
- 「させていただく」=「させてもらう」の意味の謙譲語
がそれぞれ別の単語であることを理解するためです。
これが分かればすでに正解にたどり着いています。
「①見ること」「②させてもらう」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
ようするにビジネスメールでよく使う以下の敬語と同じことなのです。
- ご一緒させていただきます
“①一緒”に謙譲語「ご」で「ご一緒」
“②させてもらう”を謙譲語「させて頂く」に変換し丁寧語「ます」で「させて頂きます」 - ご挨拶させていただきます
“①挨拶”に謙譲語「ご」で「ご挨拶」
“②させてもらう”を謙譲語「させて頂く」に変換し丁寧語「ます」で「させて頂きます」
もし「拝見させていただく」が二重敬語になるのであれば「ご挨拶させていただく」も二重敬語になりますよね??
ところが実際にはどれも正しい敬語でありビジネスメールによく使われます。
【補足】そもそも二重敬語とは?
二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。
よくある二重敬語としては「お伺いする」「お伺いいたす」があります。
なぜこれらが二重敬語なのかというと…
- 「行く/聞く/たずねる」を謙譲語にして「伺う」
- さらに謙譲語「お~する」「お~いたす」
もとになる語「行く/聞く/たずねる」に謙譲語「伺う」をつかい、さらに謙譲語「お〜する」「お〜いたす」を使っています。
「伺う」は動詞であるために名詞「拝見」と違い「~する・~いたす」という動詞をくっつけることが日本語として既におかしい訳ですが…
まぁいずれにせよ二重敬語なので間違いです。ひとつの語に同じ種類の敬語を2回つかうことが二重敬語であり、敬語のマナー違反になります。
【使い方】拝見させていただく
つづいて「拝見させていただく」の使い方について。敬語としては正しいものの、使い方を間違えるとヘンテコな日本語になりますので十分にご注意ください。
①正しい使い方:見ることに対して相手の許可が必要なシーン
「拝見させていただく」の意味は「見させてもらう」ということですから、見ることにたいして上司なり目上の許可を得なければいけないときにつかいます。※例外あり
たとえば。
◎「ちょっとその電子タバコを拝見させていただきたいのですが…」としたとき。上司なりの相手が電子タバコを自慢しているわけでないのでしたら、上司にとって相手に渡してみせることのメリットって何も無いですよね。あくまでもあなたの興味本位で電子タバコを見せてもらいたいのですから、相手の許可が必要になります。
そんなときに「電子タバコを見させてもらいたいのですが、いい?」というニュアンスで「拝見させていただく」をつかうのは何ら問題ではありません。正しい日本語の使い方です。
あるいは。
◎「部長のご自宅を拝見させていただきました。すらばしい庭園をお持ちですね!」としたとき。上司が自宅を大々的に自慢しているわけでないのでしたら、上司のプライバシーにかかわることです。そんなときには「自宅を見させてもらったよ、許してね」というニュアンスで「拝見させていただく」をつかうのも正しい日本語の使い方です。
おなじ理由で以下の使い方も正しい日本語と言えます。
- 【例文】それ新しいiPhoneですよね!?ちょっと拝見させていただきたいのですが…
- 【例文】セキュリティー対策のためカバンの中身を拝見させていただきます。※「確認させていただきます」でもOK
②まぁ許容される使い方
あとはまぁ許容される使い方として。
○許容範囲「部長のフェイスブックを拝見させていただきました。素敵な奥様ですね!」としたとき。ひょっとしたら上司は部下や取引先にFacebookの投稿を見てほしくないかもしれません。はたまた、もっといろんな人に見せつけたいのかもしれません。
フェイスブックの性質を考えるとたいていの場合は後者ではありますが…本当のところは本人にしかわかりません。従ってそんなときに「フェイスブックを見させてもらったよ、許してね」というニュアンスで「拝見させていただく」をつかってもまぁ間違いではありませんね。
あるいは。
○許容範囲「部長の入社当時のレポートを拝見させていただきました。」としたとき。ひょっとしたら上司の新人だったころのレポートは部下には絶対に見られたくないような、恥ずかしい内容だったかもしれません。あるいは上司の恥部であり極秘事項だったかもしれません。はたまた、別になんとも思ってないかもしれません。
こちらも本当のところは本人にしかわかりません。従ってそんなときに「部長の新人のころのレポートを見させてもらったよ、許してね」というニュアンスで「拝見させていただく」をつかってもまぁ間違いではありませんね。
③ヘンテコな日本語になる使い方
ところが。
×「貴社ホームページを拝見させていただきました」とした場合。会社としてはお客さんなり誰かしらに訪れてもらうためにホームページを作っているわけです。それなのにこの使い方だと「ホームページ見させてもらったよ、許してね」というようようなニュアンスになります。
もし会社のホームページが極秘情報や会社のスキャンダルで埋められていて誰にも見られたくないようなものであれば、「ホームページを拝見させていただきました」でもまぁよいでしょう。ところが常識的にはそうじゃない訳です。
したがってこんな時には「ホームページを拝見しました/拝見いたしました」が正しい日本語の使い方ということになります。
おなじ理由で以下の使い方もヘンテコな日本語だな、と感じます。
- 【変】貴ブログを拝見させていただき、連絡いたしました。
- 【変】今朝の日経新聞にて拝見させていただいたのですが…
- 【変】テレビCMを拝見させていただきました。
- 【変】メールを拝見させていただきました。
ただし相手によるし地域による
ただし。
上記はおっさん営業マンである私の勝手な価値観です。実際にはヘンテコな日本語の例文にあげたようなビジネスメールもしょっちゅうきますし、だからといって別にムッとしたりしません。
さらに地域ごとの差もあり関西人はなぜか「させていただく」というフレーズを多用します。
だからどれが正しいとか間違いとかは結局のところあまり気にしなくてもいいんじゃないかと思います。※普段のビジネスシーンにおいては、という話。
でもテレビとか公にでるような仕事をなさっている方はご留意ください。日本語を正しくつかえないとそれだけで頭悪そうに見えます。
【まとめ】シーン別の例文
例文にもしたとおり「拝見させていただく」はこのままでは使えません。「拝見させていただきます」などのように、より丁寧な敬語にする必要あり。
そこでビジネスシーン別につかえる例文を以下にて紹介します。
- 現在「見させてもらいます」としたい時
【例文】拝見させていただきます。 - 過去「見させてもらいました」としたい時
【例文】拝見させていただきました。 - 希望「見せてもらいたい」とする
【例文】拝見させていただきたく存じます。
【例文】拝見させてください。
※「いただく」は漢字表記「頂く」をつかってもOK
【注意点】”拝見”はこう使う!
つづいて「拝見」の使い方というか注意点について簡単に。
①”ご拝見”は二重敬語!
「拝見」をつかうときの注意点その一。
もっとも初歩的な敬語の使い方なのですが…「ご拝見」はNGです。
「拝見」はすでに「見ること」の敬語(謙譲語)なのに、さらに謙譲語「ご」をくわえてしまっています…
結果として「見ること」に①謙譲語「拝見」+②謙譲語「ご」としており二重敬語になりますね。※二重敬語とはひとつの単語におなじ種類の敬語を2回つかうことでありNGです。
あるいは。
「お(ご)~する」のひとかたまりを謙譲語として見たとき。「ご拝見する」でもいいんじゃないのか?とする意見もあります。ただ「~」の謙譲語が「お(ご)~する」だという解釈を適用した場合には「拝見」が謙譲語であるため、そもそも二重敬語ということになります。
②”拝見してください”は間違い敬語!
「拝見」をつかうときの注意点その二。
こちらも初歩的な敬語の使い方なのですが…「見てほしい!見てください!」と言いたいときに「拝見してください!」は間違い敬語です。
「拝見」は謙譲語であるため自分の行為につかい相手の行為にはつかいません。※例外あり
たとえば以下の使い方は間違い敬語となりNGです。十分にお気をつけください。
- NG例×上司なり目上・取引先が拝見する「添付のレポートを拝見してください」
- NG例×上司なり目上・取引先に拝見いただく「お手元の資料を拝見していただけますか」
相手の行為には基本的に謙譲語ではなく尊敬語をつかいます。※例外あり
したがって相手に見てほしいときには。
見ることの尊敬語「ご覧くださる」や例外的に謙譲語「ご覧いただく」をつかいます。以下のようにすると正しい敬語になりますね。
- 正しい例◎「添付のレポートをご覧ください」
- 正しい例◎「まずはお手元の資料をご覧いただけますか?」「ご覧ください」
いずれも上司なり目上・取引先に何かしら「見てください・見てほしい」といいたいときに使える敬語になります。
③”拝見いたします”は二重敬語ではない!
あとは注意点というよりもよくある敬語の勘違いについて。
「拝見いたします」は二重敬語だから誤りだという意見もあります。ただし答えは二重敬語ではなく100%正しい敬語です。
なぜ「拝見いたします」が間違い敬語のように感じてしまうかというと…
「拝見」はすでに謙譲語であり、さらに「する」の謙譲語「いたす」をつかって「拝見いたす」としているから…
「拝見=謙譲語」×「いたす=謙譲語」
「拝見いたします」は「謙譲語 x 謙譲語」だから二重敬語??
このようなロジックで二重敬語だという意見がでてくるのかと。
ただし答えは…「二重敬語ではない」です。
二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。
たとえば「お伺いいたす」「お伺いする」などが二重敬語の例。「行く・尋ねる」の謙譲語「伺う」をつかっているのに、さらに「お〜いたす」「お〜する」という謙譲語をつかっているためです。
ところが。
「拝見いたす」は以下のように「①見ること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
①「拝見」=「見ること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
②「いたす」=「する」の意味の謙譲語
くわしくは以下の記事にて。
見させていただく は間違いです。
見せていただく が正解。
せっかく正しい日本語についてまとめてらっしゃるのに、もったいないです。