つづいて、きわめてシンプルに専門用語を使わず、自動車業界の課題とグローバルトレンドを解説していく。
①自動運転
自動車業界にもっともインパクトを与えるであろうトレンド。運転を人工知能を使って無人化してしまおうというもの。
米グーグルや米アップル、その他ベンチャー企業が先行していた分野で彼らの意図は明確。
それは自動車業界を乗っ取ろうというもの。スマホのOSでマイクロソフトを駆逐したアップルとグーグル。自動運転技術において重要なのはOS(車を動かすコンピュータ)であることは疑いようがない。
家電メーカーを単なる下請け会社にしたように、トヨタもグーグルの単なる下請け組み立て会社になる日が近い?
この危機感をようやく察知したトヨタは2014年1月から専門チーム設立。アクションのあまりの遅さに吐き気がするが、巻き返しは十分に可能と思われる。
今後、自動運転のOSを完成させたメーカーがゲームチェンジャーとなるだろう。
②環境対応(HV?EV?PHEV?燃料電池?バイオディーゼル?)
世界中で排ガス規制はどんどん厳しくなる。
正しくはEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)を売りたい自動車メーカーが政府に圧力をかけている。←これはどうでもよい。
環境対応について現時点で候補となる技術は主に6つ。
- HV(ハイブリッド):日系メーカーのみ
- PHEV(プラグイン・ハイブリッド電気自動車):どこもやっている
- EV(電気自動車):どこもやっている上、電機メーカーまでもが参入できる
- FCV(燃料電池):どこもやっている
- バイオディーゼル:既に実用化段階、日本はまだ
- 直噴ターボ:ドイツ勢つよい
このうちどれが本命になるかは流石にわからない。EV、PHEVとFCVが最も現実的か。ちなみにEVは2040年までに世界市場の35%を占めるというデータがある。←かなりうそ臭い。
私はEV、PHEVやFCVが環境問題に対する答えだとは思わない。なぜなら、それを作る過程でエネルギーや素材をガソリン車以上に消費しているから。何か新しいアイディアが必要。
「自動車に乗らないことが最もエコなのに、エコを主張してむりやり車を売らないといけない」この矛盾を自動車業界は解決できていない。
③途上国の急成長
フォルクス・ワーゲンVWの牙城である世界最大の中国市場。VWはトヨタに次ぐ世界第2位の販売台数を誇る。
しかしビジネスの中身はすごくチープ。単に現地生産の鉄クズ自動車を投入し、競争の激しい市場で消耗しているだけ。そのうえ排ガス不正リコールで2015年は過去最悪の赤字計上…
一方のトヨタやホンダ、日系メーカーは中国には深入りせず北米・東南アジアをメインに攻めるスタンス。これが大正解。中国ビジネスを甘く見ているフォルクス・ワーゲンはいずれ失脚するだろう。
途上国の販売台数だけ見たときに、中国はまだ伸び白を残しているし加えてインド、東南アジア、アフリカが成長著しい。このマーケットにどこまでプレゼンスを発揮できるかが各社業績の鍵を握る。
④自動車の軽量化による燃費向上
鉄ボディー、アルミボディーからプラスチック(炭素繊維複合材)へ。
ガラスからプラスチック(ポリカ・アクリル)へ。
鉄やガラスをプラスチックに代えると車体がめちゃくちゃ軽くなる。すると燃費性能が大幅に上がり客も自動車メーカーも大喜び。
東レを筆頭に化学素材メーカーが仕掛けるプラスチック攻勢。彼らは本格的にガラスメーカー、アルミメーカーや鉄鋼メーカーに喧嘩を売っている。新規素材はまだ採用にはいたってないが時間の問題だろう。
>>炭素繊維メーカー vs 鉄鋼業界の勝者はどっち?自動車用途の課題と今後
【おまけ】ハイブリットカーは日本だけ
ハイブリットカーは日本で盛り上がっているだけで海外ではほとんど見かけない。その理由は4つ。
- 世界最大の市場である北米のガソリン価格。日本の半額以下であり、安すぎて誰も燃費を気にしないこと。ただし米国は州によって排ガス規制が厳しいため売れる可能性あり。
- 電池性能が悪いこと。バッテリーは10万km走行で70%劣化するらしい。あまり車に乗らない日本人であればよいが、外人には向かない。
- パワー不足。欧米人にはまったくウケない。
- 車体コストが高いこと。日本では補助金により価格が抑えられているが海外でそんな制度はない。
結局、性能とコストの面でガソリン車のほうがよいのである…
ちなみに自動車メーカーの志望動機にハイブリットカーがうんたら書く就活生が多いが、私は推奨しない。上述したようにハイブリットカーは日本のガラパゴス市場にしか適用できないからである。
自動車業界の現状(日本国内)
◎日本の新車販売台数【2015年実績】:505万台(軽190万台)前年比▲9.3%
◎日本の新車販売金額【2015年推定】:約15兆円
◎日本の自動車業界規模(TOP10完成車メーカーのみ集計)
- 業界規模:60兆3,720億円(メーカー業界トップ)
- 経常利益計:4兆9,383億円
- 労働者数:206,811人
- 平均年齢:39.9歳
- 平均勤続年数:17.5年
- 平均年収:688万円
→ 各社の売上金額の合計であるため、純粋な国内マーケットを示していない。この数字には輸出による売上も、海外子会社の売上も含まれている。
世界の新車販売台数7400万台のうち、500万台(6.7%)が日本のマーケット。国内市場規模は推定15兆円。
ところが自動車メーカー10社の売上合計は60兆円であり、差額分は海外での売上。こうしてみると日系自動車メーカーは海外での売上および輸出に依存していることがわかる。為替によって利益が大きく変わるのは仕方ない…。
私は17卒の学生です。就活の話や業界の裏事情など、いつも面白く読ませていただいております。
実は、内定先が鉄鋼業界のため、自動車の軽量化のことでお尋ねしたいことがあります。
すでにプラスチック(炭素繊維複合材)は航空機などで使用されているとはいえ、未だ生産性の問題で価格が高いなどと伺ったことがあります。
そこで、東レや帝人などの炭素繊維メーカーがこうした問題を解決するまで、あとどのくらいの年数だとお考えでしょうか?また、自動車における鉄やアルミとの競争はどのような結果になると予想されますか?
面倒な質問だと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。