生命保険といえば「ノルマ」や「生保レディ」というキーワードがよく挙がる。
また激務ブラックの代名詞とも言われる営業が「生保営業」でもある。
(実際には働き方は人それぞれで、決してそんなこともないのだけど…)
そこでここでは。
生保レディの離職の状況や、その理由を解説していくこととする。
生保の営業といっても種類は大きく4つある
「生保の営業」とひとくくりに言っても、その中には大きく分けて、
- 個人保険営業
- 団体保険営業
- 代理店営業
- 融資営業
の4つがある。このうち②団体保険営業、③代理店営業、④融資営業は主に総合職が行うものであり、一般的な生保営業のイメージにはまったく当てはまらない。
したがってここでは。
いわゆる生保レディや、ノルマと言った、世間一般が想像する生命保険の営業である、①個人保険営業に絞って紹介をしていくこととする。
※総合職の営業については別記事にて → 生保の総合職が激務ブラックって本当?現役大手生保マンが語るよ。
生保の個人むけ保険営業っていったい何してる?
まず、個人保険の営業はどのようなものかを簡単に説明すると…
言葉通り、
- 個人宅や企業の職場に訪問し、顧客に生命保険を売るというものである。
(厳密に言えば他にも中小企業向けに経営者保険という、個人保険でも団体保険でもない保険商品の営業も行うのだが、ここでは割愛する。)
生保会社の利益のほとんどは個人むけからくる
実は生命保険会社が最も稼げるのが、この個人保険の販売チャネルなのだ。
彼らが利益をあげる仕組みをザックリと解説すると。
たとえば。
死亡したときに保険金が支払われる死亡保険は、一度加入すれば定期預金と同じように、保険料が給与引き去りや口座引き落としなどの形で払い込まれる。したがって生命保険会社にとっては継続的かつ安定的な保険料収入が見込める。
その一方で。
契約者が死亡する頻度はそこまで高くないため(当然その頻度を計算して保険料が計算されているのだが)、生命保険会社として得られる利益は大きくなる。
こうした理由から、生命保険が売れ、それが保有契約として積み上がっていけば生命保険会社の利益も雪だるま式に増えていく。
生保レディーの中には年収1億円以上も!?
結果として生保レディの給与もそれに比例しどんどん高くなっていく。
給与体系については、生保レディの場合は、固定給部分は小さく、変動給部分が大きな割合を占める。
一般的な企業の場合はこの逆である。総合職が営業を行うことが多いため、固定給をベースに成果給が上乗せされるケースが多い。
そのため。
稼ぐ人は年間で1億円以上稼いでいる生保レディもいるほどだ。「生保はノルマがあるからきつい」と言われながらも、高収入に夢を抱き、生保レディの仕事を選ぶ人がいる理由はここにある。
【参考】生保レディの募集要項
参考までに、いくつかの会社のホームページから、生保レディまたは営業担当の募集要項を調べてみた。
<日本生命>
○給与
基本給+お客様サービス活動(契約内容の説明、保険金・給付金の支払い手続き、顧客のニーズに合った提案)に対する給与+保険販売による実績給。
入社1年目は14.5万円~21万円+実績給、入社2年目は12.8万円~18.4万円+実績給といったように、固定給部分が一定程度存在するものの、入社年次を重ねるにつれてその割合が低くなり、実績給部分が大きくなる。
○応募資格
原則採用時満50歳未満(職務経験不問)で、高卒以上の学歴を有する、または同等の学力等があると認められる方(国籍不問、性別不問)。毎日営業部へ出社が可能な方。
<第一生命>
○給与:開示なし
○応募資格:高卒以上
<明治安田生命・住友生命>
○給与:開示なし
○応募資格:開示なし
※日本生命や第一生命と給与体系や応募資格に大きな差はないと思われる。
<ソニー生命>
国内大手生保とは異なり、高度なコンサルティング営業を特徴とする会社であるため、応募資格には大卒以上の学歴を設定している。ただし、営業の育成に相当の自信を持っているのか、特別なスキルや今までの経験は一切問わないというスタンス。
ディスクロージャー資料で開示されている給与水準は、営業社員の平均報酬月額が65万3000円(注:賞与及び通勤手当等の手当は含んでいない)なので、相当高いことが分かる。年収数千万円の営業社員も多くいることで有名である。
<プルデンシャル生命>
ソニー生命同様、営業はライフプランナーによる高度なコンサルティングが行われる。
○給与水準:開示なし
○応募資格
大卒以上(短大・専門学校※都道府県知事の認可を受けた2年制以上の専門・専修学校 含む)※生命保険業界未経験者に限る。
経験・スキルよりも人物重視のポテンシャル採用。
【あると望ましい経験・能力】
◇営業や接客などコミュニケーションスキルを必要とする仕事の経験
◇マネジメントの経験(業種・業界不問)
当社で色々なことを学びたい、成長していきたいという気持ちがある場合は上記経験・能力問わず歓迎。
真偽のほどは不明であるが、同社の給与水準の高さを表す話として、中途採用の面接で面接官が現在の年収を面接者に訊ね、面接者が「○百万円です。」と答えると、「……えっ、それって月収の間違いじゃないですか?」と聞き返すらしい。「自社の営業は月に数百万円稼ぐ」ということを暗にアピールする殺し文句だ。
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各社で微妙に異なるが、いずれの会社も「売れば売るほど収入が増えますよ」ということを売り文句に採用を行う。また国内大手生保の場合、「たとえ売れなくても最初は結構な固定給があるので安心ですよ」といったようにして採用候補者に安心感を与える。
そもそも生保レディとして入社した場合、「どのくらい売ってどのくらい稼ぐか」は本人の意思で決められることなのだが…営業拠点のトップである拠点長としては、年間販売目標を背負っている。したがってそうした生保レディにも、とにかく保険を売ってもらう必要がある。
そこで拠点長からノルマというものが与えられることになるわけだが、本来的にはノルマを達成しなくとも、自分で設定した目標をクリアできればそれで問題ないのだ。
生保営業の離職率は公表されてないが、入社1年で8~9割辞める
少々まえ置きがながくなったが、ココから本題にはいる。
各社とも生保レディの離職率のデータは公表していない。
が、各社の拠点長経験者の話を聞く限りでは、1年で8割から9割が離職すると言われている。
営業拠点の生保レディの人数は30人から50人程度である。
したがって1/3~1/5にあたる10人を採用してようやく来年に1人、2人残る程度である。
一般的な企業で新卒が入社3年以内の離職率が3割であることを考えると、驚異的な数字である。
生保レディの離職率がなぜここまで高いのか、次から解説していく。
生保営業の離職率が高い理由
1.そもそも生命保険が売れない
会社によって若干異なるが、生保レディは、毎月一定程度の生命保険の販売実績を挙げなければならず。
その一定水準に達しない場合には退職しなければならない、という規定を定めている会社が多い。
国内大手生保の場合、新たに採用された生保レディは、生命保険を販売するために概ね1ヵ月間の研修を受ける。
営業拠点に配属された後は、前任者の顧客や活動基盤(●●市△町の住宅地や××社など、活動できる先)を割り当てられ、トレーナーがしっかりと付き、きめ細かいフォローをする。
こうした体制が整っているため、真面目にこつこつ営業をしていれば、そのうち生命保険が売れるようになっている。
しかし生保レディの中には、それでも保険を売れない人がいる。
日本の生保レディは、歴史的な背景もあり、40~60代の女性が大半を占めている。そうした「お母さん世代」に新しいことを教え込み、金融商品である生命保険を売ってもらうことにはそれなりのハードルがある。
また若い人であっても、中には中学を卒業していなかったり、日本語も十分に話せない外国人の方も一定程度存在する。
当然、そうした中にも優秀な生保レディはいるのだが、ほとんどは、生命保険商品のしくみや重要性を理解してそれを顧客に効果的に説明し、加入してもらうことは容易ではない。
また、営業経験はもちろん、社会人経験の無い人も多いため、顧客とのアポ時間に遅刻したり、顧客からの要望や依頼に応じない等、社会人では考えられないことが頻繁に起きる。
そうした人たちは生命保険が売れないためいつまで経っても収入が上がらず、売れない期間が続くことで退職基準に引っかかってしまい、最終的には退職してしまう。
2.最初は売れるが、徐々に売れなくなる
地道な営業活動で最初は生命保険が売れたとしても。
1年、2年を過ぎたあたりから、自分の担当する地域の家庭や企業は大体訪問し終え、既に生命保険に加入してもらった先と、断りを受けた先とに分類されるため、新たに訪問する先がなくなってしまう。
ガッツのある生保レディであれば、たとえば
- 死亡保険に加入している既存顧客に年金商品など他の商品を重ね売りしたり、
- 既契約(既に加入してもらっている契約)の保障額を増やしてもらったり、
- 断られた先に再度違う切り口でアプローチをするといったことができる
が、そうでない人は行き詰ってしまい退職してしまう。
3.変化の無い日々に嫌気がさす
さらに地道な営業活動とガッツをもって生命保険が売れ続けたとしても・・・
「訪問できる顧客を開拓⇒アポ取り⇒訪問⇒生命保険の必要性を説明⇒商品提案⇒契約獲得⇒保全手続」という無限ループの活動をずっと繰り返していかなければならない。
これは営業職の宿命でもあるといえるが、一般的な企業の場合、部署異動によって営業以外の仕事ができたり、社会の変化に合わせて売るものや提案するサービスが変わってくる。
しかし。
生命保険を売る生保レディにはそのようなことがないため、そうした変化の無い日々に嫌気がさし、辞めてしまう人もいる。
4.生保レディ同士の人間関係
先述の通り、生保レディの大半は女性であるため、いわゆる女子校的な面倒くささがある。
すべての女性がそういうわけではないのだが、生保レディ間での陰口や弱い者イジメ、いやがらせなどが少なくない。
たとえば。
営業活動をする中で拠点長に同行を依頼するなど頼りすぎると、先輩や同僚の生保レディから「自分たちは1人でがんばっているのに何で○○さんだけ」などと妬まれることもあり、場合によっては陰湿ないやがらせなども行われる。
他にも。
若い生保レディが露出の多い服装をしていたり化粧が濃かったりするなど見た目が派手だと露骨に非難し、ひどい場合にはマクラ営業をしているのではないかという噂を流布する。
こうした女性特有の面倒な人間関係に辟易し去っていく人も多い。
5.拠点長のパワハラ
拠点長は営業拠点のトップであるため、いわば一国一城の主である。
そのため、その拠点をどのように経営し、生保レディをどうマネジメントしていくかは、拠点長によって大きく変わる。
和やかで和気あいあいとした雰囲気を作り、生保レディが気持ちよく生命保険を売ってもらうように仕掛ける拠点長もいれば…
いっぽうで恐怖政治を引いて生保レディに緊張感を持たせて業績を挙げる拠点長もいる。
そのため。
場合によっては、拠点長の行動が行き過ぎて、売れない生保レディに売れない理由を数時間にわたり懇々と問い詰めたり、親族や友人に生命保険を売ることを強要させたり、暴言を吐いたりと言ったパワハラ行為が起きることもある。
パワハラに対して社会的な厳しい目が向けられている現在ではこうしたことは少なくなってきているものの、拠点長のパワハラに耐えられず退職する生保レディもいる。
まとめ
以上、生保レディの離職の状況や、その5つの理由を説明してきた。
生保業界の深い部分まで踏み込んだものになったが、生保の営業という仕事自体は、顧客に万一のことがあったときに、本人やその家族を金銭面でサポートすることができる誉れ高いものであり、大きなやりがいもある。
興味を持った方は臆することなくチャレンジしてほしい。
就活・転職活動の参考にして頂ければ幸いである。