営業マンによる非鉄金属メーカーの業界研究2017年版。市場規模、メーカーランキング、現状と課題、今後の動向、将来性まとめです。
記事を作成するにあたり、とある旧財閥系・非鉄金属メーカーのマネージャーに話を聞いています。これまで就活生からたくさんのリクエストを頂いていながら遅くなり、誠に申し訳ありません。取材にもお金(主に飲み代)と時間が必要、ということでご了承ください…。
就活・転職の非鉄金属業界研究のご参考にどうぞ。
そもそも非鉄金属ってなに?
非鉄金属は文字通り鉄以外の金属のこと。周期表で説明するとピンクと赤色の部分。
あまりに不親切かな…。
ということで産業用として使われる非鉄金属の種類をざっくりとまとめる。( )内は元素記号。
- ベースメタル(埋蔵量の多い汎用金属)
→ 銅(Cu)、スズ(Pg)、亜鉛(Zn)、鉛(Sn) - 軽金属(比重の軽い金属)
→ アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、チタン(Ti) - レアメタル(希少な金属)
→ チタン、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、ビスマス、カドミウム、コバルト - レアアース(希土類元素)
→ セリウム、ネオジム、プラセオジム - 合金
→ アルミ合金、チタン合金、タングステン合金など、組み合わせにより作る - 酸化物
→ 酸化チタン、酸化マグネシウムなど - 貴金属
→ 金、銀、白金 - 放射性金属
→ ウラン、プルトニウム
※非鉄金属は目に見えるモノ以外に、まったく気付かないけど身の回りで使われる。たとえばiPhoneの重量ベースで8割は非鉄金属で成り立つ(筆者の適当な推定)。アルミボディだけじゃなく、搭載される電子材料のほとんどが、元をたどると金属なのである。
非鉄金属業界のバリューチェーン
どのようにして、非鉄金属が手元に届くかをざっくりとまとめる。
鉱山開発(権益投資・自社開発)
↓製造・販売
精錬(石から金属の取り出し)
↓製造・販売
1次加工(板にしたり、合金にしたり、別の化合物にする)
↓製造・販売
2次加工(メッキしたりする)
↓製造・販売
顧客(化学メーカー・電子部品メーカー・容器メーカーなど)
↓
さらに色々な加工
↓
最終製品
▼▼▼
バリューチェーンで考えると、石油元売メーカーのJXや出光興産と同じような立ち位置となる。つまり、産業のもっとも上流にいるメーカーということになる。
会社によっては精錬をやっていなくて加工のみやっていたりする。また、非鉄金属のリサイクルをメインにしている会社もある。
非鉄金属業界の現状(とくに上流)
ざっくりと業界について把握したところで、非鉄金属業界の現状について述べていく。
市場成長率:世界GDP成長と同じ
出所:住友金属鉱山
上の画像は主要な金属の市場成長率推移をしめしている。ところどころで凹んではいるものの、長期トレンドでは確実に需要が伸びていることがわかる。
非鉄金属は、ありとあらゆる産業で使用される。自動車、自動車部品、建築、アルミ缶、電子回路、電子部品、家電、電線などなど。したがって、成長率は世界のGDP成長に合わせて伸びる。
市場が伸びることは確実なので問題ではなく、上流権益を持つ企業にとっての問題は「価格がどうなるか」「ライバルがどうなるか」「需給がどうなるか」ということ。非鉄金属の市況価格によって、利益が大きく変動することになる。
市場規模とシェア:NA
すべての非鉄金属について語っていると10ページ以上の超大作になってしまうため割愛する。つづく国内の売上ランキングから、何となく市場規模を推測していただきたい。
国内売上ランキング(2015-2016年)
- 住友電気工業|売上2.9兆円
- 三菱マテリアル|売上1.4兆円
- 古河電気工業|売上8748億円
- 住友金属鉱山|売上8554億円
- フジクラ|売上6785億円
- UACJ|売上5757億円
- 日本軽金属ホールディングス|売上4644億円
- 三井金属鉱業|売上4505億円
- DOWAホールディングス|売上4065億円
- リョービ|売上2545億円
※UACJ=古河電工の軽金属部門&住友軽金属工業が統合して誕生(2013年)
非鉄金属業界のメーカーは、手がけるビジネスによって大きく二つに分けられる。
一つは、国内外の上流権益(鉱山)に投資し非鉄金属を生産・販売する企業。三菱マテリアル、住友金属鉱山、三井金属鉱業がこれにあたる。
二つめは、非鉄金属の加工をメインとする企業。住友電気工業、古河電気工業、UACJ、日本軽金属がこれにあたる。たとえば、アルミの板を作ったり、銅線、電線を作ったりする企業のこと。
非鉄金属業界の課題(とくに上流)
つづいて、非鉄金属業界の課題について述べていく。
価格下落(どうにもならない)
下のグラフで示すが非鉄金属の価格は直近、下落を続けていた。これは投機マネーが引いたことと、製品在庫が過剰だったこと、供給過剰だったこと、中国需要が落ち込んでいることなどが理由。
値段が下がるとなぜ儲からなくなるのか?
石油と同じで、鉱山の採掘コスト+精錬コスト(≒原価)というのは大きく変わらない。原価が常に一定であるため市況価格が高ければ高いほど、上流にいる権益者は儲かるのだ。
※上流権益を持たないメーカーには関係ない
出所:住友金属鉱山
鉱山は開発され尽くされている
非鉄金属は昔からの業界であり、石油と同じく良質な鉱山は開発され尽くされている。そのような状況で新たな鉱山開発をしようとすると、より開発難易度の高い場所(地球の奥地、高山など)に行かなければならない。
結果、新たな鉱山開発プロジェクトはカネが余計にかかる。リスクの高いビジネスになっている。
したがって各社、既存権益のシェアアップや、既存鉱山の拡大をメインの戦略にしていくだろう。
環境問題によるリスク
鉱山開発には、自然破壊が常につきまとう。
バカでかい重機を使って山を切り開き、穴を掘り…。なんてしていると、どんどん自然が壊される。さらに、精錬工程(純度の高い金属にする)では有毒物質もじゃんじゃん出る。※もちろん、ちゃんと問題ないようにするのだけど。
そして鉱山の日雇い労働者も、とんでもない環境で働いている。
これを良く思わない人や政治家も中にはいる。環境問題は最近、特に厳しくなっており30年前とは比べ物にならないほど、企業は環境対応にカネをかけている状況。
健康被害があれば「操業停止」ということもあり得る。日系企業は結構マジメにやっていたが、それでもリスクあるため課題の一つとして挙げておく。
※特に途上国のビジネスでは、カネを日系企業からむしりとろうとする輩が多く、あること無いことイチャモンをつけられる。韓国の従軍慰安婦のような「タカリ」が「国→企業」相手に行われている、といったイメージ。基本的に勝ち目がない。
非鉄金属業界|今後の動向
動向は各社それぞれなので、非鉄金属業界大手の戦略をざっくりとまとめる(2017年現在)。詳細は各社の中期経営計画にて学習すること。
三菱マテリアル|今後の動向
三菱マテリアルは金属事業(とくに銅)、セメント事業、加工事業、電子材料事業、アルミ事業から成り立つ。
- 金属事業、とくに強みとしている銅では中国の過剰キャパが問題となっているが、長期トレンドでは確実に伸びる。従って、ペルーなどで新規銅山開発に着手している。他に、世界シェアNo.1である金属リサイクル事業を強化していく戦略。
- セメントは国内需要低迷のため、米国および新興国での事業拡大をメイン戦略としている。が、セメントは「地場メーカーが強い」というのが基本でありM&Aでもしないと拡大は難しいのでは?
- 加工事業は、「超硬製品」のシェアを伸ばしていく戦略(世界10%目標)。特に自動車・航空機・医療分野での拡大を見込む。
- 電子材料事業は収益性の高い事業ではあるが…。非鉄金属の「ダウンストリーム(末端用途)戦略」として、片手間的な事業という印象しかない。ちなみに大企業では本業の調子が悪くなってくると、片手間的な高収益事業に注目が集まる(苦笑)。
- アルミ事業は、汎用市場で量を売って稼動を埋め、ニッチ分野で高シェアを維持する戦略。ただ、もともとが汎用金属なので、どれだけ頑張っても大きく稼げる事業ではない。
住友金属鉱山|今後の動向
住友金属鉱山は資源事業(とくに銅、ニッケル)、精錬事業、材料事業から成り立つ。
- 資源事業、とくに強みとしている銅、ニッケルでは、これまで投資してきた鉱山の確実な創業、拡大をメインの戦略としている。
また、これまでは権益投資がメインであったが、自社鉱山の開発もやっていく方針を出している。 - 精錬事業(石から金属を取り出す)、とくに強みとしているニッケルの精錬で日本・東南アジアでのキャパ拡大をメイン戦略にしている。
需要は間違いなく伸びるため、手堅い戦略といえる。一方で銅の精錬は余計なことはせず、コスト削減くらいしかやりようがないだろう…。 - 材料事業は三菱マテリアルと同じく、ダウンストリーム戦略の一部。たしかに戦略としては立派なのだけど、専業メーカーも多く、どうやって違いを出すのだろうか?
自社の安い原料を使ってローコストで作れること、原料を改良して高機能化をできることが強み。だからパワーゲームに持ち込んでも勝てるが、技術力には疑問が残る。
三井金属鉱業|今後の動向
三井金属鉱業は機能材料事業、金属事業、自動車機器事業から成り立つ。三菱、住友とは売上で大きく離されている。
- 機能材料事業は主に銅箔、触媒から成り立つ。銅箔は薄い銅の板のことで、電子材料に使われる。見るからに誰でも作れそうな商品ではあるが「より薄く作る」技術によって差別化している。ただし、元々が汎用の金属であるために大きくは稼げない。
触媒は化学品であり、いろいろな用途に使えるが、自動車排ガス除去の需要が大きい。三菱樹脂のマフテックなどと同じ目的。三井金属鉱業は特に、2輪むけが強く、この分野では世界シェア50%近く保持している。※技術は不明 - 金属事業は、鉱山開発や権益投資がうまくいっておらず、リサイクル事業を強化していく戦略。※三菱マテリアルと同じ
- 自動車機器事業は、なぜ三井金属がやってるのか不明。自動車むけの材料が多いから、という理由でなんとなくやっている感が否めない。
加工品メイン企業|今後の動向
金属加工品をメインとしている企業は、各社、それぞれ違う分野を攻めているため、動向を把握しきれない。
ざっくりとは、
ケーブル・電線・ワイヤーハーネスなどの住友電工、フジクラ、古河電工、
特定の分野に特化する日本軽金属(アルミ)、UACJ(アルミ、銅箔)、
その他。
みたいなイメージ。
※非鉄金属は埋蔵量に限りがあるためリサイクルして使う。理論的には何度でも使える。
日系メーカー共通の動向
だらだらと各社の動向を記載したが、日系メーカーに共通する動向もまとめておく。
- グローバル展開をより強化
▼日本市場の成長が期待できない以上、グローバルで拡大していくしかない。これはどの業界も同じ。 - ダウンストリームを拡大・強化
▼非鉄金属は、石油みたいなものであり産業のありとあらゆる場面で使われる。ダウンストリームに位置する商品まで手を広げると、早期にビジネス拡大できる。上流権益ビジネスの拡大が難しくなっているため各社、同じことを考えているだろう。 - コストダウン
▼コモディティーに近い非鉄金属において、最も重要なのがコスト。いうまでもなく各社、取り組んでいる課題である。
非鉄金属業界の将来性
最後に非鉄金属業界の将来性について述べる(完全に筆者の独り言)。
グローバル市場で伸ばしていく
どの業界でも日本の需要は頭打ち~減少に向かう。
こんなことは10年前からわかっていたことなので、まともなメーカーは前々からグローバル展開していた。世界需要は伸びるので今後も海外事業を中心に伸ばしていくだろう。
上流のメーカーは問題なし
まず、直近の経営環境は厳しい。だけど将来的には何も問題ない。
直近の課題は世界的な資源価格の下落にある。これは投機マネーが引いたことと、製品在庫が過剰だったこと、供給過剰だったこと、中国需要が落ち込んでいることなどが理由だと思われるのだけど、需要と供給がマッチしていれば、いずれは適正価格になる。余剰在庫も整理される。
だから問題なし。
最も心配するべきなのは、需要と供給のバランスである。
需要が減って供給過剰になれば、無理やり値下げして売る必要があり、市況価格は下がる。もしくは中国人が鉱山開発をしまくって、供給過剰になれば市況価格は下がる。
逆に需要が増えて供給不足になれば、がんがん値上げしてエンジョイできる。
世界的な非鉄金属の需給バランスを見てみると、どれもまぁ、2018年頃には需給がほどよくなる。だから問題ない(下のグラフ参考)。
出所:住友金属鉱山
加工品メーカーは…
加工品メーカーには、3つの方向性がある。
- 需要の大きな汎用製品で薄利多売するか、
- ニッチな特殊品市場で、売上は小さくても高収益を目指すか、
- もしくは、そのどちらもか…。
非鉄金属はそもそもが汎用的な製品であるため、安く作ることが最も重要であり技術で差別化することは難しい。さらに差別化しても待っているのは日系メーカー同士のパイの食い合いである。
これは化学業界の課題を述べた際に記事にしているので、ここでは深く語らないが、いずれ業界再編されていくものと考える。
※ただし住友電工、古河電工など、グローバル市場で戦える製品を持つ企業はすばらしい。企業ごとに強み、弱みをしっかりと分析すること。
まとめ
業界自体の将来は明るい。
非鉄金属業界にとって最悪だと思われた2015年度も各社、大して赤字になっていない。そして今年には概ね回復している。これがBtoB(法人相手)を主体とする企業の安定感を物語っているだろう。
ただ一方で営業利益率が30%になったり、そういうことは基本的にない業界でもあり、利益を増やすにはとにかく規模を拡大するしかない、という面もある。
安定、安定、安定。
もっとも簡潔に非鉄金属業界を表現すると、こうなる(笑)。化学メーカーよりもっと保守的で、安定的な業界だと言える。
記事の更新ありがとうございます。
希望を通して頂けたのでしょうか?笑
自分の考えていた業界像とほぼ一致する部分が多く見受けられ、少し安心しました。良い悪いは別にして「安定、安定、安定。」には笑ってしまいました。