就職活動と転職に必要な業界分析。「鉄鋼業界(高炉メーカー)の動向と将来性②日本国内情勢」について語っていきます。①世界情勢からの続きになります。
この記事の目次
鉄鋼業界の現状(日本)
日本の鉄鋼業界概要【2014年】
- 業界規模:約16兆円
- 経常利益計:8,577億円
- 労働者数:70,331人
- 平均年齢:38.6歳
- 平均年収:563万円
*2013年度実績、主要企業のみ集計
まずは国内産業としての鉄鋼業界の現状。
リーマンショック直前まで絶好調だったが2009年以降、浮き沈み激しい状態が続く…
自動車業界や化学業界が円安・原料安で近年絶好調な状況から比較すると、鉄鋼業界はとても厳しい状況。
リーマンショック後、立ち直れていないのには理由がある。
- 韓国・中国勢の技術力向上
- 原料安になってもそれ以上に価格下落(中国・韓国余剰キャパのせい)
- 円安になっても輸出の利益貢献度がゼロ(国内製造コストが高すぎる)
- グローバル展開がしょぼすぎる(合弁会社に出資しているだけ)
国内の鉄鋼需要・粗鋼生産量見通2016〜2020年
単位:百万トン | 2015年実績 | 2016年見通 | 2020年見通 | 成長率(年率) |
---|---|---|---|---|
国内需要 | 62 | 60 | 58 | ▲1.0% |
輸出 | 38 | 38 | 40 | 1.0% |
輸入 | 6 | 6 | 7 | 2.5% |
国内生産 | 104 | 105 | 101 | ▲1.0% |
*出典:新日鐵住金の2016年1Q決算資料を基に筆者推定。
次に国内の鉄鋼需要をみていく。
国内需要はどの産業もそうだがどんどん減っていく。年率1%ずつの減少というのは大したことがないように感じるが、実はとてつもなく大きい数字。
2016年→2020年を比較すると実に▲6.8%も国内需要が減ることになるのだ。
一方の輸出。これは年率1%成長とおいた。でも可能であれば儲からない輸出ビジネスはしたくない。
「国内需要減る → 稼働率キープしたい → 空いたキャパは安値輸出で埋める」
こんな感じで負の連鎖に陥る。
また内需が減る理由はもちろん以下3つに集約される。
- 人口減少
- 公共事業の伸び悩み
- 住宅着工件数の伸び悩み
唯一の救いは自動車メーカーの国内生産が調子よいことくらいか…
鉄鋼メーカーランキング2016年(日本・売上ベース)
鉄鋼メーカーの主要国内企業は以下の通り。
【国内No.1】新日鐵住金/4.9兆円
【国内No.2】JFE/3.4兆円
【国内No.3】神戸製鋼所/1.8兆円
【国内No.4】日立金属/1兆円
【国内No.5】日新製鋼/5,470億円
【国内No.6】大同特殊鋼/4,605億円
【国内No.7】愛知製鋼/2,141億円
【国内No.8】共英製鋼/1,609億円
【国内No.9】淀川製鋼所/1,592億円
【国内No.10】大和工業/1,509億円
*2015年度実績
2013年、新日本製鐵が住友金属工業を吸収合併し誕生した新日鐵住金がトップ。
高炉メーカーは日本に4社(新日鐵住金・JFE・神戸製鋼所・日新製鋼)となったが、そんなに必要ない。*高炉メーカーとは上流~下流まですべてやるメーカーのこと。総合化学メーカーみたいなポジション。
さらなる業界再編が必要。高炉メーカーは日本に1社あれば十分。←公正取引委員会が許さないという問題が…
日本全体の最適化をするべきなのに、それぞれの会社がやりたいようにやっていては共倒れするのがオチだろう。
鉄鋼メーカーの課題(日本)
課題①輸出比率が高い
国内生産量の4割近くが輸出されている。
何度も述べているが「国内生産で輸出」というのは付加価値商品にだけ通用する手法。汎用品は人件費や原材料の安い国で作らないと話にならない。
鉄鋼メーカーが輸出で稼いでない状況を見ると、何をやっているのかすぐに分かる。
「国内の余ったキャパを輸出で埋める」という中国メーカーと同じ戦略。人には文句を言うくせにね。
ただ少し救われているのは、それなりの品質を要求する海外自動車工場のビジネスがあることだろうか…
結局、輸出は単なる穴埋め。利益のほとんどは特殊鋼および国内の安定的なビジネスからくる。←それでも相対的に見たら海外勢よりは全然まともに経営している。
国内市場が縮小している中、そんなやり方では大きく伸びることもないだろう。
課題②グローバル展開がしょぼすぎる
海外事業は合弁会社への投資だけで、自前設備は何一つ持たない。技術は供与しない。国内から全て輸出し海外営業も商社任せ…
海外事業に何一つ関与しないグローバルカンパニー(笑)。まるで20年前の化学業界を見ているかのよう。
鉄鋼業界の海外ビジネスはメーカーの責任を果たしておらず、他力本願では稼げるわけがない。
各社、危機感は十分に持っているだろう。鉄鋼メーカーはサボってないでちゃんとしたグローバル運営をするべき。
20年前からやっておくべきだったが、今更どうしょうもないので今後に期待したい。
課題③グローバルでの供給過剰?
グローバルで余っている約6.4億トン(中国4億トン)の能力…
現状の能力を維持し続けるだけで2050年くらいまで、誰も設備投資せずとも世界需要をカバーできる。本来、日系メーカーは「中国キャパあまり」「韓国勢の技術追い上げ」でダメージを受けるポジションではない。
なぜなら中国の国内市場には興味が無いし、中国から輸出される商品とは別の土俵(高品質・特殊品)で戦っているから。
加えて中国・韓国勢に技術コピーされたら、また新たな商品を生み出せばよいだけなのだ。
ところが装置産業の宿命か、グローバル展開をサボっていたせいか、鉄鋼業界は違う。
「中国キャパ余りで大変だ!!」
「ポスコの技術コピーで大変だ!!」
と騒ぐようではメーカーとして三流である。そんな状況になることは10年前から分かっていたのに…
鉄と同じように中国キャパ余りが深刻な塩ビ市場を見て欲しい。
信越化学は中国キャパ余り状況のなか莫大な利益を上げている。旭硝子も塩ビ事業を東南アジアで展開し、それなりに稼いでいる。
中国が輸出ポジションになったくらいで業績悪化するようでは「存在価値なしの会社」と言わざるを得ない。
日系メーカーはビジネスのやり方を再構築するべきである。
課題④技術力は世界最高だが?
鉄はお金さえあれば誰でも作れる。
設備を買って、技術を買えばいいだけなのだから。これが計画性の無い中国の生産能力拡大を生んだ。
ただし技術力が必要な分野もあり、それが特殊鋼といわれる分野。
日系メーカー・韓国ポスコだけが作れる分野もいくつか存在するが、いかんせんパイが小さすぎて特殊鋼だけで生産能力をすべて埋めることはできない。
どうしても「汎用品で量を稼ぎ、特殊品で利益を稼ぐ」というビジネスになってしまう。
特殊品だけにすれば利益率はとんでもなく上がる。でも設備廃棄・規模縮小とリストラが伴う。それは国の産業を支えてきた鉄鋼メーカーのプライドが許さないだろう。
日系鉄鋼メーカーの将来性
国策だから潰れない
いろいろと厳しいコメントをしたが、鉄鋼メーカーは国策だから潰れない。
極端な話、大手鉄鋼メーカーが経営難になったらJFE・新日鐵住金・神戸製鋼を合併させて、国内の値段を倍にすればよい。
それで莫大な利益の上がる会社になる。
ここ数年以内にJFEも神戸製鋼も新日鐵住金に統合されるべきである。
中国のキャパ余りは10年我慢すれば解消される
先の記事にもした通り、中国メーカーでちゃんと利益を出しているのは宝山だけ。
他は全部、赤字企業なのだ。
こんな状況で長く経営できるはずも無く、10年後には生き残り2~3社に集約されているだろう。
苦しむのはみんな同じ
中国が輸出ポジションになって頭を抱えているのはみんな同じこと。
特に韓国ポスコはかなりの恐怖感を持っているだろう。
何しろ韓国政府が中国とFTA(自由貿易協定)を結んでしまっているので、どんどん中国から高性能・安価な輸入品が入ってくるのだから。
市場規模もあり、FTAもあり、アンチダンピングのリスクも無しとなれば中国メーカーが真っ先に狙うのが韓国。
しかもポスコは日本からコピーした技術を中国勢にコピーされ、それが自国に輸入されてくるという自爆パターン。
結局なにが言いたいかというと、苦しいのは日本勢だけじゃなく業界全体みんな同じ。
中国メーカーも余った生産能力で輸出しないと自分が潰れるのだから…
業界の再編が進む今後10年くらいまで(根拠なし)、鉄鋼業界は苦しい。
輸入品対策はアンチダンピング発動
輸入品が安く入ってきて日系メーカーの商売が危うくなったら、アンチダンピングの発動を国に求めればよい。
中国品に200%の関税をかければ、鉄鋼メーカーの既得権=国内ビジネスは保たれる。
問題は弱腰の政府・官僚。
アメリカがやっているように、ことごとくアンチダンピングをかけてブロック経済にすればよいのだ。
日本の政治家・官僚は変なところでマジメなので困ってしまう。
政府は日本と中国どっちが大事なのか?問いたい。
鉄鋼で最強なのは工具鋼そのシェアーNo.1が日立金属。