誤用の多い「させていただく」症候群につけるクスリは「いたします」。
ということで、
若者におおい「させて頂く(させていただく)症候群」が発症する理由と、そのクスリ「いたします」について。
ビジネスシーン(電話・メール・手紙・文書・社内上司・社外取引先・目上・就活・転職)での使い方と例文を紹介します。
まずは基本として、
させて頂く(いただく)は「させてもらう」の謙譲語であり敬語としてはOK。丁寧語「ます」と組み合わせて「させていただきます」として使われます。
ところが間違い敬語というか、誤用だと感じるケースもあり。
誤用だと感じる理由については本文にて。
それでは具体的に、
「させていただく」のビジネスシーン(電話・メール・手紙・文書・社内上司・社外取引先・目上・就活・転職)にふさわしい使い方・メール例文を紹介していきます。
そもそも「させていただく症候群」とは?
そもそも、
「させていただく症候群」あるいは「させて頂く症候群」とは何かについて少し。
「させていただく症候群」とは名前のとおり、ビジネスシーンで「させていただく」をとにかく使いまくる症状のこと。とくに生命保険や証券会社の営業など、個人相手の営業職に多い症状です。また就活生にもおおい症状。
たとえばビジネスメールや就活メールで、
- 誤用の例文「ご連絡させていただきます」
- 誤用の例文「履歴書を送付させていただきます」
- 誤用の例文「教授にお伝えさせていただきます」
- 誤用の例文「確認させていただきます」
「させていただく症候群」にかかると、自分の言葉に意思がまったく感じられない上に敬語がバカ丁寧で耳につく「うざいキャラ」になってしまいます。
させていただく症候群 の原因
させていただく症候群の原因は、おもに2つ。
- 敬語変換サイトによる誤用・乱用
- ビジネスメール例文サイトによる誤用・乱用
原因のひとつは「敬語変換サイトによる誤用」
敬語の使い方について解説する某ウェブサイトに責任があります。
誰とはいいませんがその某ウェブサイトによると「する」の謙譲語が「させていただく」とあります。「させていただく」は本来「させてもらう」の謙譲語であり、「する」の謙譲語は「いたす」「お・ご~する」です。
とにかくその間違った敬語解説サイトが「する 敬語」というキーワードでGoogle検索上位にいることによって生じた問題。
つづいて「ビジネスメール例文サイトによる誤用」
ビジネスメールや就活メールの例文テンプレートを紹介するウェブサイトがまさに「させていただく症候群」であることも原因のひとつ。例文をコピペすると必ずこの症状にかかります。
すみません…前置きが長くなりましたが本題にはいります。
させて頂く(させていただく)の正しい使い方
「させていただく症候群」と病状までついてしまったのですが…
「させていただく」は間違いというわけではありません。問題は誤用や乱用することにあるため、その点について少し。
させて頂く は敬語として正しい
冒頭でも解説しましたが、
「させていただく」は敬語としては正しいです。
「させてもらう」を謙譲語にすると「させていただく」となります。
一般的には丁寧語「ます」をくっつけて「させていただきます」として使います。
謙譲語とは、自分を低めることで行為のおよぶ先を高めて敬意を表す敬語のことです。
させて頂く が誤用・間違い敬語と感じる理由
謙譲語「させていただく」が間違い敬語であったり、誤用と感じる理由は…
たとえば以下の例文をご覧ください。
- 例文①資料を送付させていただきます
原文「送付させてもらう」 - 例文②本日は営業させていただきます
原文「営業させてもらう」 - 例文③ご連絡させていただきます
原文「連絡させてもらう」
これらの例文は…
おかしい敬語・乱用誤用とされるフレーズです。そう感じる理由は以下のとおり。
↓
それなのに「~させてもらう=させていただく」では相手の許しがなければ「~できない」のように聞こえてしまう。でも実際にはそんなことない。
↓
謙譲語「させていただく」の乱用・誤用だ!!
させていただく症候群だ!!
こんな感じで、
謙譲語「~させていただく」は間違い敬語・乱用誤用のように感じてしまうのです。
ただ結論としては、
謙譲語「~させていただく」は正しく使えばそれほどおかしい敬語ではありませんし、間違い敬語というわけでもありません。
させて頂く の正しい使い方
正しい「させていただく」の使い方は…
使い方①相手からの許可が必要なとき
使い方②自分が何かしらの恩恵をうけ、相手が不利益をこうむるとき
こんなときに「~させていただく」を使うことは全然あり。たとえば、
- 例文「ご一緒させていただきます」
- 例文「出席させていただきます」
- 例文「コメントは差し控えさせていただきます」
は正しい使い方です。
なぜなら相手の許しがなければ「ご一緒させてもらう=同行させてもらう、仕事を一緒にさせてもらう」あるいは「出席する」ことはできないからです。
最後の「差し控えさせていただく」は「使い方②自分が何かしらの恩恵をうけ、相手が不利益をこうむるとき」であるため、これも正しい使い方です。
したがって、
こんなときに「させていただく」を使うのはまったく問題ありません。
あくまでも相手からの許可が必要なかったり、相手が不利益をこうむらない場面で乱用するのはよくない、誤用・乱用にあたるということです。
まぁOKな使い方
あとはまぁOKな「させて頂く」の使い方としては、以下例文のようなものがあります。
- 例文「本日は休業させていただきます」
原文「休業させてもらう」 - 例文「誠に勝手を申し上げますが、製品を10%値上げさせていただきます」
原文「値上げさせてもらう」 - 例文「弊社の新商品を紹介させていただきます」
原文「紹介させてもらう」 - 例文「貴社の求人に応募させていただきます」
原文「応募させてもらう」
例文「本日は休業させてもらう」は、果たして休業するのに相手の許可が要るのかという議論はありますが、「使い方②自分が何かしらの恩恵をうけ、相手が不利益をこうむるとき」に該当するため許容範囲です。
例文「誠に勝手を申し上げますが、製品を10%値上げさせていただきます」は値上げするには相手の許可がいるわけで、これもまぁOKな使い方といえます。
例文「本日は新商品を紹介させていただきます」も、いちおうは相手の許可がいるわけですからまぁOKな使い方。
例文「貴社の求人に応募させていただきます」も、いちおうは相手の許可がいるわけですからまぁOKな使い方。
ただ、おっさん営業である私はどれも決して使いません。必要以上にかしこまるのが嫌いだからです。
客は神でもなんでもなくって、ただのヒトなのですから。
考え始めるとキリがない
で、
結論としては、
「考え始めるとキリがない」です。考えれば考えるほど合っているような気もするし、間違っているような気もします。
(すでに私は混乱状態におちいってます…)
敬語って正解がないからタチ悪いのです。
相手が失礼だと感じたら失礼に当たりますし、不快だと感じたら不快なのです。たとえ間違っていても万人が認めればOKとなります…
だから大学受験とかで「敬語の問題」って超ビギナーで誰でもわかるようなものしかないのですよね。
すみません、完全に蛇足です。
させていただく症候群には「いたします」が効く
ここで生じる疑問として、
させて頂く(させていただく)が誤用乱用するとマズイことはわかったけど、させていただく症候群に効くクスリってないの?
というのがあります。
結論としては、
「させていただく症候群」には「する」の謙譲語「いたす」あるいは「お・ご~する」を使えばOK。丁寧語「ます」とくっつけて「いたします」「お・ご~します」とすればとても丁寧な敬語フレーズになります。
させていただく症候群 の言い換え例文
これまで使った「させていただく症候群」の例文を「いたします」あるいは「お・ご~します」に言い換えてみます。
- 例文「資料を送付させていただきます」
→言い換え「資料を送付いたします」 - 例文「本日は営業させていただきます」
→言い換え「本日は営業いたします」 - 例文「ご連絡させていただきます」
→言い換え「(ご)連絡いたします」 - 例文「ご一緒させていただきます」
→言い換え「ご一緒いたします」
- 例文「出席させていただきます」
→言い換え「出席いたします」
- 例文「コメントは差し控えさせていただきます」
→言い換え「コメントは差し控えます」
- 例文「本日は休業させていただきます」
→言い換え「休業いたします」 - 例文「誠に勝手を申し上げますが、製品を10%値上げさせていただきます」
→言い換え「値上げいたします」 - 例文「弊社の新商品を紹介させていただきます」
→言い換え「(ご)紹介いたします」 - 例文「貴社の求人に応募させていただきます」
→言い換え「応募いたします」
こんな感じで、すべての「させていただく」は別の敬語に言い換えできます。他にも「本日、休みをいただきます」などのようにして使ってもよいでしょう。
これにて「させていただく症候群」のすべての疑問を解消しました。
念のためここからは謙譲語「いたします」の使い方を解説しておきます。
させていただく症候群に効く謙譲語 – 「いたす」「お~する」「お~いたす」使い方と例文
「させていただく症候群」に効く謙譲語「いたす」「お・ご~する」「お・ご~いたす」のビジネスシーン(メール・手紙・文書・社内上司・社外・目上・就活・転職)にふさわしい例文と使い方を紹介します。
そもそも謙譲語とは?
念のため基本となる謙譲語とはなにか?について簡単に復習しておきます。
- 謙譲語Ⅰ = 自分を低めることで行為のおよぶ先を高めて敬意を表す敬語のこと。
例文「お伝えします」「お土産をいただく」「貴社へ伺う」 - 謙譲語Ⅱ = 聞き手に敬意を表す敬語のことで「もうす」「おる」「まいる」「いたす」などがある。
例文「母に申します」「海へ参ります」
2種類ありややこしく感じるかもしれませんが「①自分側を低めて相手を高める」か「②話し手に敬意を示すために使う」だと理解しておきましょう。
【出典】文化庁「敬語の指針」
使い方
「させていただく症候群」に効く謙譲語「いたす」「お・ご~する」「お・ご~いたす」の使い方は先にのべたとおり、
「自分が~いたす」のようにして自分の行為・行動に使う謙譲語です。
そうすると、
- 正しい例文「ご連絡いたします」
- 正しい例文「ご報告いたします」
- 正しい例文「お伝えいたしましょうか?」
のような感じで「自分が~する」ときにつかいます。
一方でNGとなる使い方にはたとえば、
- NG例文「取引先の○○部長が弊社にご訪問しました」
のような例文はダメ。
目上のヒトなり社外の相手が「する」としたいときには謙譲語ではなく尊敬語を使い「取引先の○○部長が弊社にご訪問なさいました」あるいは「いらっしゃいました」とします。
お伺いいたします・お伺いする は二重敬語だから間違い!
ここでひとつ注意点を。
「させていただく症候群」に効く謙譲語「いたす」をつかうと二重敬語になってしまう表現がおおくあります。
たとえば、
「行く・聞く」の謙譲語「伺う」にさらに謙譲語「お~いたす」「お~する」をつかうと「お伺いいたす」「お伺いする」という謙譲語になります。
ここでひとつ問題が…
おなじように以下の謙譲語も二重敬語となりNG。
- 間違い敬語「お伺いしたい」
→ 正しくは「伺いたい」 - 間違い敬語「お伺い」
→ 正しくは「伺い」
でも、これらの敬語はビジネスシーンではどの表現もフツーに使われます。ビジネスパーソンのつかう敬語って実は、わたしも含めてBroken敬語なのです。
ということで、
間違っていても突っ込まれることは少ないとは思いますがお気をつけください。
丁寧語「です・ます」を組み合わせると、より丁寧な敬語になる
「させていただく症候群」に効く謙譲語「いたす」「お・ご~する」「お・ご~いたす」を使うときには、丁寧語「です・ます」を組み合わせるとより素晴らしい敬語になります。
すでに例文にはしていますが…
ビジネスシーンにおいては
「いたします」「お・ご~します」「お・ご~いたします」として使うとより丁寧です。というより、ほぼ100%こういった使い方をします。
「いたします」「お~します」「お~いたします」どれ使う?
これまで述べたように「する」の謙譲語には以下3つの種類があります。
- 「いたす」「いたします」
- 「お~する」「お・ご~します」
- 「お~いたす」「お・ご~いたします」
で、一体どれを使うべきかという点について少し。
ビジネスメール・手紙・文書では「お・ご~いたします」
ビジネス会話では「お・ご~します」あるいは「いたします」
のようにして使い分けするとよいでしょう。文書やメールなど顔の見えないコミュニケーションではよりかしこまった敬語フレーズが好まれるからです。
いっぽうで会話シーンでの堅苦しい敬語は「バカ丁寧」であり、相手に不快感をあたえるリスクあり。多少はくだけた敬語をつかっても差し支えありません。
ただしホントに相手によるのですけど…
例文
「させていただく症候群」に効く謙譲語「いたす」「お・ご~する」「お・ご~いたす」のビジネスシーン(メール・手紙・文書・社内上司・社外・目上・就活・転職)にふさわしい例文まとめ。
ホントに色々と使えます。
- ビジネスメールで「~する」とするシーン
・例文「ご依頼のサンプル出荷が完了いたしました。以下、納期等の仔細につきご報告いたします」
・例文「一度、ご挨拶かたがたご訪問いたしたく存じます」
・例文「○○部長の送別会を開催いたしたく、以下、日程等の仔細につきご案内いたします」 - 疑問形「~しましょうか?」とするシーン
・例文「お荷物、お持ちいたしましょうか?」
・例文「空港までお届けいたしましょうか?」
・使い方は「~する」としたいときのビジネスメール、会話
・存じる は「思う」の謙譲語でビジネスメールなどかしこまった表現が好まれるシーンで使われる敬語。
・謙譲語を使うことで自分の行為を低くし話の受け手を高めている