「拝察いたします」が二重敬語ではなく正しい敬語である理由

「拝察いたします」は間違い敬語?二重敬語?

とご心配のあなたへ。

「拝察いたします」は100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】皆さまさぞご心痛のことと拝察いたします。
  • 【例文】ご多忙のことと拝察いたしますが、お早めにご対応いただけますと幸いです。

などがあり、いずれも「拝察=(相手の心情や立場・状況を)察すること」の意味でつかわれます。

つまり「(相手の心情や立場・状況を)お察ししますよ…」と上司なり目上・取引先に伝えるためにつかう敬語ですね。

それでは「拝察いたします」が正しい敬語である理由とビジネスメールでの使い方、例文を紹介します。

「拝察いたします」が二重敬語ではない理由

「拝察いたします」は二重敬語ではありませんし間違い敬語でもありません。正しい敬語です。

なぜなら謙譲語「拝察」を「拝察する」としたうえで「する」の部分に謙譲語「いたす」を用いているから。さらに丁寧語「ます」をくっつけると「拝察いたします」という敬語になります。

ただ。

これではあまりにも不親切なので誰もが理解できるようにくわしく解説していきます。

“拝察”は名詞であり動詞”する”が必要

敬語を正しく理解するために中学生レベルの日本語文法をすこしだけ復習します。

「拝察」は「察すること」の意味の謙譲語と考えることができますが品詞は名詞です。このままではほとんど文章には使えません。

たとえば先の例文で「ご多忙のことと拝察ますが、〜」では意味不明な文章になりますよね?

そこで。

「察する」という意味にするには動詞「する」をくっつけて「拝察する」とします

漢語や外来語の名詞に動詞「する」をくっつける用法はほかにも「返答する」「連絡する」「報告する」などいろいろあり。

“①察すること②する”それぞれに謙譲語を使っているから正しい

で。

果たしてなぜ中学生レベルの復習が必要だったのかというと…

  1. 「拝察」=「察すること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

がそれぞれ別の単語であることを理解するためです。

これが分かればすでに正解にたどり着いています。

「①察すること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

ようするにビジネスメールでよく使う以下の敬語と同じことなのです。

  • ご報告いたします
    “①報告”に謙譲語「ご」で「ご報告」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」
  • ご連絡いたします
    “①連絡”に謙譲語「ご」で「ご連絡」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」
  • お知らせいたします
    “①知らせる”に謙譲語「お」で「お知らせ」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」
  • お願いいたします
    “①願う”に謙譲語「お」で「お願い」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」をくっつけ「いたします」

もし「拝察いたします」が二重敬語になるのであれば「ご報告いたします」や「お知らせいたします」「お願いいたします」も二重敬語になりますよね??

ところが実際にはどれも正しい敬語でありビジネスメールによく使われます。

【補足】そもそも二重敬語とは?

二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。

よくある二重敬語としては「お伺いする」「お伺いいたす」があります。

なぜこれらが二重敬語なのかというと…

  • 「行く/聞く/たずねる」を謙譲語にして「伺う」
  • さらに謙譲語「お~する」「お~いたす」

もとになる語「行く/聞く/たずねる」に謙譲語「伺う」をつかい、さらに謙譲語「お〜する」「お〜いたす」を使っています。

「伺う」は動詞であるために名詞「拝察」と違い「~する・~いたす」という動詞をくっつけることが日本語として既におかしい訳ですが…

まぁいずれにせよ二重敬語なので間違いです。ひとつの語に同じ種類の敬語を2回つかうことが二重敬語であり、敬語のマナー違反になります。

【注意点】”拝察いたします”はこう使う!

つづいて「拝察いたします」をつかうときの注意点について簡単に。

①”拝察いたします”は二重敬語!

「拝察いたします」をつかうときの注意点その一。

もっとも初歩的な敬語の使い方なのですが…「拝察いたします」はNGです。

「拝察」はすでに「察すること」の敬語(謙譲語)なのに、さらに謙譲語「ご」をくわえてしまっています…

結果として「察すること」に①謙譲語「拝察」+②謙譲語「ご」としており二重敬語になりますね。※二重敬語とはひとつの単語におなじ種類の敬語を2回つかうことでありNGです。

あるいは。

「お(ご)~いたす」のひとかたまりを「~する」の謙譲語として見たとき。「ご拝察いたす」でもいいんじゃないのか?とする意見もあります。ただ「~する」の謙譲語が「お(ご)~いたす」だという解釈を適用した場合には「拝察」が謙譲語であるため、そもそも二重敬語ということになります。したがってこの記事では「①察すること」「②する」にそれぞれ謙譲語を適用するという解釈で「拝察いたす」のみを正しいとしました。

②”拝察してください”は間違い敬語!

「拝察いたします」をつかうときの注意点その二。

こちらも初歩的な敬語の使い方なのですが…「察してほしい!察してください!」と言いたいときに「拝察してください!」は間違い敬語です。

「拝察」は謙譲語であるため自分の行為につかい相手の行為にはつかいません。※例外あり

たとえば以下の使い方は間違い敬語となりNGです。十分にお気をつけください。

  • NG例×上司なり目上・取引先が拝察する「どうか拝察してください」
  • NG例×上司なり目上・取引先に拝察いただく「どうか拝察してもらった上で了解いただけますか?」

相手の行為には基本的に謙譲語ではなく尊敬語をつかいます。※例外あり

したがって。

察することの尊敬語「高察・賢察」や察するの尊敬語「お察しになる」をつかいます。以下のようにすると正しい敬語になりますね。

  • 正しい例◎「どうかご賢察のほどお願い致します」
  • 正しい例◎「どうかご高察の上、ご了承いただけますと幸いです」

こうすると「お察しください」の意味の丁寧な敬語となります。

③”拝察します”でも十分に丁寧

あとは注意点というか使い方について。

これまで「拝察いたします」が敬語として正しい理由をみてきましたが…

じつは「拝察します」だけでも敬語としては十分に丁寧です。なぜなら「察すること」の謙譲語「拝察」をつかっているわけですから。あえてこれ以上に丁寧にする必要もありません。

相手にたいして本当に敬意をしめす必要があるときに「拝察いたします」とし、そうでなければ「拝察します」だけでOKです。

④”拝察申し上げます”だとなお丁寧

ついでにもうひとつ使い方について。

これまで「拝察いたします」ばかりを見てきました…じつは「拝察申し上げます」とするとより堅苦しいというか、大げさな敬語フレーズになります。

公式なビジネス文書・公式な挨拶ビジネスメールなど、普段よりもかしこまった感じの文章にする必要があるときにつかうとよいでしょう。

いっぽう普段づかいのビジネスメールには先ほども述べたとおり「拝察します」だけでも十分に丁寧です。

※ 補足「申し上げます」の使い方↓

「〜申し上げる」の使い方はたとえば、

  • 例文①それでは申し上げます。→「言う」の意味の敬語(謙譲語)
  • 例文②申し上げるまでもない事ですが…→「言う」の意味
  • 例文③祝辞を申し上げます。→「言う」の意味

というように「〜を言う」の意味としてつかいます。このほかにも「〜する」のかしこまった敬語として、

  • 例文④ご報告申し上げます。→「報告する」の意味
  • 例文⑤ご案内申し上げます。→「案内する」の意味
  • 例文⑥ご挨拶申し上げます。→「挨拶する」の意味
  • 例文⑦お願い申し上げます。→「お願いする」の意味

としても使います。

さらに。例文④⑤⑥の使い方は謙譲語「〜致します」「お(ご)〜します」にも言い換えOK。「〜申し上げます」とするとより堅苦しい文章になりますので、公式な挨拶などのビジネスメールにおおく用います。

他にもある二重敬語と勘違いしやすい例

あとは「拝察」だけでなく「拝」をつかった謙譲語で二重敬語と勘違いしやすい例をまとめておきます。

『拝受いたしました』

「拝受いたしました」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】本日カタログを拝受いたしました。早々にご対応いただき誠にありがとうございます。
  • 【例文】先ほどご注文書を拝受いたしました。誠にありがとうございます。
  • 【例文】資料のほう拝受いたしました。ご多忙のところ誠にありがとうございます。

などがあり、いずれも「(資料なりメール・郵送物を)受け取ること」の意味でつかわれます。

正しい敬語である根拠は以下のとおり。

  1. 「拝受」=「受け取ること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

「①受け取ること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

『拝読いたしました』

「拝読いたしました」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】ご推薦いただいた書籍を拝読いたしました。
  • 【例文】先生の新著を拝読いたしました。
  • 【例文】いつも貴ブログを楽しみに拝読いたしております。

などがあり、いずれも「読むこと」の意味でつかわれます。

正しい敬語である根拠は以下のとおり。

  1. 「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

「①読むこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

『拝見いたしました』

「拝見いたしました」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】WEBサイトを拝見いたしました。
  • 【例文】先日のスーパープレーを拝見いたしました。

などがあり、いずれも「見ること」の意味でつかわれます。

正しい敬語である根拠は以下のとおり。

  1. 「拝見」=「見ること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

「①見ること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

その他「拝○いたします」はたいてい正しい

これまで紹介した例文だけでなく「拝○いたします」はたいてい正しい敬語です。理由はこれまで再三のべたとおりです。お気兼ねなくお使いください。

【まとめ】二重敬語に感じられる理由と正しい解釈

ゴチャゴチャしてきたのでまとめます。

なぜ「拝察いたします」が間違い敬語のように感じてしまうかというと…

「拝察」はすでに謙譲語であり、さらに「する」の謙譲語「いたす」をつかって「拝察いたす」としているから…

「拝察=謙譲語」×「いたす=謙譲語」

「拝察いたす」は「謙譲語 x 謙譲語」だから二重敬語??

このようなロジックで二重敬語だという意見がでてくるのかと。

ただし答えは…いい加減しつこいのですが「二重敬語ではない」です。

二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。

たとえば「お伺いいたします」「お伺いする」などが二重敬語の例。「行く・尋ねる」の謙譲語「伺う」をつかっているのに、さらに「お〜いたす」「お〜する」という謙譲語をつかっているためです。

ところが。

「拝察いたす」は以下のように「①察すること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

①「拝察」=「察すること」の意味の謙譲語(単体では名詞)

②「いたす」=「する」の意味の謙譲語

どうしても納得できない場合の言い換え

ここまでの解説で終わりになります。

が。

それでもまだご納得いただけない方は…

シンプルに「拝察します」あるいは「お察し致します」「お察しします」をつかうとよいでしょう。