「いかがいたしましょうか」「いかがなさいますか」の敬語の違い、使い分け、上司への正しい使い方、注意点について、ビジネスメールの例文つきで誰よりも詳しく解説していく記事。
まずは基本として、
「いかがいたしましょうか」「いかがなさいますか」の意味はどちらも、
「どうしますか?」です。
違いは謙譲語「いたす」なのか尊敬語「なさる」を使っているのか、という点。敬語ではありますが、使い方が違います。
結論としてはどちらも、目上の人(上司・先輩)に使える正しい敬語ですが、「いかがいたしましょうか」は使えるシーンが思いつきません。よって「いかがなさいますか」を使うべき。
正しい使い方にはたとえば、
- ◎部長、お飲み物はいかがなさいますか?ビールでよろしいでしょうか?
- ◎部長、送別会の席順はいかがなさいますか?
- ◎髪型は、いかがなさいますか?(美容室)
- ◎ステーキの焼き加減は、いかがなさいますか?(レストラン)
などがあり、NGとなる使い方にはたとえば、
- NG例×部長、本日の営業、同行いかがいたしましょうか?
→「同行いたしましょうか?」がふさわしい。 - NG例×お客様、お荷物はいかがいたしましょうか?
→「お荷物、お持ちいたしますか」「お持ちいたしましょうか」がふさわしい。
さらに、なんとなく合っていそうだけど違和感を覚える使い方には、
- 髪型は、いかがいたしましょうか?(美容室)
- ステーキの焼き加減は、いかがいたしますか?(レストラン)
があります。
ざっくりとした解説はこれにて終了ですが、
なぜNGなのか?なぜ正解なのか?なぜ違和感を覚えるのか?
という点についての解説と、
違い、使い分け、意味、敬語の正しい使い方について、もっと詳しくみていきましょう。
※ちなみにこのNG例文は、どこぞのゴミサイトが「正しい例文」として解説をしていたので、「悪い例文」として引っ張ってきました(失笑)。
※※長文になりますので、時間の無い方は「パッと読むための見出し」より目的部分へどうぞ。
「いかがいたしましょうか/なさいますか」の違い
①敬語の違い
「いかがいたしましょうか」を敬語としてみると、
- 「いかが=どう、どのように」+「する」の謙譲語「いたす」
「いかがなさいますか」は、
- 「いかが=どう、どのように」+「する」の尊敬語「なさる」
を使って敬語にしています。違いは尊敬語を使っているか、謙譲語を使っているか、という点ですね。
つまり、この二つの違いを知るには、謙譲語と尊敬語の違いを理解すればいいということになります。
※どちらも敬語としては成立しますので、目上の人(上司・先輩)にも使える表現となっています。
②謙譲語「いたす」と尊敬語「なさる」の違い
謙譲語は、自分の行為に対して、自分をへりくだって言うことで相手を立てる敬語。目上の人(上司・先輩)に対してなにか発言するとき、自分の行為に対してつかいます。
尊敬語は、相手の行為に対して、相手をうやまって言うことで相手を立てる敬語。目上の人に対してなにか発言するとき、目上の人(上司・先輩)の行為に対してつかいます。
これが基本です(厳密には謙譲語の中にも2種類ある)。
「いかがいたしましょうか/なさいますか」の使い方
「いたす・なさる」はどちらも「する」の意味なので、
「いかがいたしましょうか?」は自分の行為に対してのみ使い、「(相手のために自分が)どうしたらいいでしょうか?」と確認する使い方、
「いかがなさいますか?」は相手の行為に対してのみ使い、「(相手が)どうしたいのか?」をたずねる使い方です。
どちらも、相手の意思を尋ねるシーンで使います。
ただし「いかがいたしましょうか」「いかがなさいますか」を使いすぎると、バカの一つ覚えみたいでみっともないです。
使うときには以下の注意点を必ず守ってください。
「いかがいたしましょうか/なさいますか」の注意点
注意①「いかが」は「Yes/No」で答えられる質問には不要
「いかが」という表現は本来、「Yes/No」でこたえられる質問には不要です。
なぜなら、「いかが=どう?どのように?=How」を使うことによって、「Yes/No」以外の選択肢を相手に与えてしまうから。
もっと単純化するためにたとえば、
「YesかNoで選べ」という二択のテスト問題があるとします。
これが「回答を記述せよ」という問題になったら、正解率がとんでもなく下がりますよね?テストを受ける側にとっては、まったくありがたくない話です。
これと同じように、「Yes/No」の単純質問のはずなのに「いかが」を使って「記述問題」にしてしまうことには、相手への配慮が足りていません。相手を混乱させてしまいます。
たとえば、以下の2つの表現を比べてみましょう。
- 例文①お荷物、いかがいたしましょうか?
- 例文②お荷物、お部屋までお持ちいたしますか?
例文①と尋ねられた場合、受けて側は相手の意図がわかりません。いっぽうで例文②は相手が尋ねたいことが明確です。
例文①のように「いかが=どう=How」を使うと、
- 荷物を部屋までホテルマンが運ぶのか?
- 荷物を部屋まで自分で運ぶのか?
- 荷物を捨てるのか?
- 荷物を開けるのか?
- 荷物をフロントに預けるのか?
- 荷物を爆発するのか?
- 荷物を郵送するのか?
などなど…考えうる選択が無限になってしまうのです。
ホテルマンからみると、荷物を(自分が)運ぶかどうか?という点を確認したいはずなのに、質問の受け手にとってはこのように、大量の選択肢があるわけで・・・。答えに困ってしまいます。
したがって「運ぶ」「運ばない」のYes/Noクエスチョンにし、
例文②の「お荷物、お部屋までお持ちいたしますか?」としたほうが、相手に対する配慮がなされています。
ということで冒頭でも示しましたが、同じ理由で他にもNGとなる例と、適切な使い方をまとめます。
適切な使い方の例文;
- 正解例◎部長、お飲み物はいかがなさいますか?
→選択肢がビール、ソフトドリンク、日本酒などたくさんある - 正解例◎部長、送別会の席順はいかがなさいますか?
→Yes/Noで答えられない
→「部長がどうするか」たずねている
NGとなる使い方の例文;
- NG×部長、本日の営業、同行いかがいたしましょうか?
→敬語としてNGではないものの「Yes/No」で答えられる質問に「いかが」は不要。
→「同行いたしましょうか?」がふさわしい。 - NG×お客様、お荷物はいかがいたしましょうか?
→敬語としてNGではないものの「Yes/No」で答えられる質問に「いかが」は不要。
→「お荷物、お持ちいたしますか」「お荷物、お持ちいたしましょうか」がふさわしい。 - NG例×部長、お飲み物はいかがいたしましょうか?
→部長がえらぶのに、自分の行為をへりくだる謙譲語「いたす」はおかしい
→いかがなさいますか?を使う
注意②結局「いかがいたしましょうか?」は使わない
違いでくわしく解説したとおり「いかがいたしましょうか」は自分の行為に使い、「いかがなさいましょうか」相手の行為に対して使います。
ところが、「いかがいたしましょうか?」を使うケースをいくら考えても出てきません。これは私の語彙力の問題かもしれませんが、使えそうなケースはすべて、無理やり「いかがいたしましょうか」を使っているだけです。
他に、もっとふさわしい表現があるので、そちらを使うべきだと考えます。
たとえば例文のような感じで、もっと素晴らしい表現に言い換えできるのです。
- NG例×部長、本日の営業、同行いかがいたしましょうか?
→敬語としてNGではないものの「Yes/No」で答えられる質問に「いかが」は不要。
→「同行いたしましょうか?」がふさわしい。 - NG例×お客様、お荷物はいかがいたしましょうか?
→敬語としてNGではないものの「Yes/No」で答えられる質問に「いかが」は不要。
→「お荷物、お持ちいたしますか」「お荷物、お持ちいたしましょうか」がふさわしい。
注意③バカのひとつ覚えみたいに使いすぎない
バイトくんが使う「マニュアル敬語」というのがあります。
これをバカの一つ覚えみたいに使うのは、本当に頭が悪くみえるので要注意。敬語というのは、マニュアル化できるようなものではなく、自分の立場・相手の立場・雰囲気をも読みながら使わなければいけないのです。
たとえば、
- NG例×お客様、お荷物いかがいたしましょうか?(ホテル)
- NG例×ご注文はいかがなさいますか?(レストラン)
- NG例×お弁当はいかがいたしましょうか?(コンビニ)
などなど…。
この中でふさわしい使い方をしている例って、実はどれ一つとしてありません。すべて気持ち悪いマニュアル敬語です。
- 正解例◎お荷物、お持ちいたしましょうか?(ホテル)
- 正解例◎ご注文はお決まりでしょうか?(レストラン)
- 正解例◎お弁当、あたためますか?(コンビニ)
正解例のように言ったほうが相手には答えやすく、親切です。「いかが」という表現に固執するのは「いかがなものでしょうか?」。
※ただしNG例も敬語としては正しいです。適切な表現ではない、ということ。
注意④感想を求める「いかがでしょうか?」と混同しない!
「いかがいたしますか」「いかがなさいますか」と似たような表現で、実は意味の違う言葉に「いかがでしょうか」というのがあります。
これは「どう思う?どうだろうか?」という感想であったり、意見を求める言葉です。
相手のアクションを求める「いかがする=どうする?」とはニュアンスが違います。
たとえば、
「コーヒーはいかがでしょうか?」
「先週の展示会、いかがでしたか?」などと使います。
相手がどうする?自分がどうすればいい?という意味で使う「いかがいたしますか/なさいますか」とはまったく違います。
混同しないよう、気をつけましょう。
結論①結局のところ使い分けは必要ないかも…
考えれば考えるほど、「いかがなさいますか」「いかがいたしますか」の使い分けが必要ないような気がしてきました…。注意点でグチャグチャと述べましたが結局のところ、解釈の仕方で何でも正解になりそうです。
例えば、
- 例文①お荷物、いかがいたしましょうか?
- 例文②お荷物、いかがなさいますか?
この2つの使い方って、どちらも考え方次第で正解に取れます。
考え方①:
相手のために、自分が荷物をどうする(いたす)か尋ねたいから、
「いかがいたしましょうか?」が正しい!
考え方②:
相手が荷物をどうする(なさる)か判断するわけだから、
「いかがなさいますか?」が正しい!
私のような古い人間は「考え方②」が圧倒的に正しいと思うのです。
けど最近は「考え方①」でも許されるみたい。ということで解釈の方法によって、どんな表現もOKになるし、逆にNGにもなってしまうのです…。
というか、考え方①を適用したら、どんな時でも「いかがいたしましょうか」を使ってしまいそうな…。
結論②「いかがいたしますか=使わない」「いかがなさいますか=選択肢が多いときだけ」
この結論②は筆者の独断と偏見です。
私は国語学者でもなんでもなく、しょうもないサラリーマンのおっさんなので、聞き流してもらって構いません。
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私の結論は「いかがいたしますか?」は使わない。理由は、使う場面が思いつかないから。NG例で示した通り、もっとよい別の表現に言い換えできます。
そして「いかがなさいますか?」を使うのにふさわしい場面は、想定される選択肢が多いときだけ。「Yes/No」の選択肢だけの場合、もっとふさわしい表現がありますので、そちらを使いましょう。
- 正解例◎部長、お飲み物はいかがなさいますか?
→選択肢がビール、ソフトドリンク、日本酒などたくさんある - 正解例◎部長、送別会の席順はいかがなさいますか?
→Yes/Noで答えられない
→「部長がどうなさるか」たずねている
結論③ビジネスシーンでは「いかが」を避けるべき
これまでみてきたように「いかが」という言葉を使うと、すべてが曖昧になります。
でもビジネスシーンにおいて、曖昧なことは悪。ビジネスパーソンはできるだけ具体的に、できるだけ分かりやすい言葉づかいを心がけるべき。社内で上司を相手に話すときには、なおさら「シンプルで明確であること」が必要です。そうでないと、余計な時間をコミュニケーションに費やしてしまいます。
※ただし「いかがお過ごしですか?」などの定型文はそのまま使う
とくに、
- 部長、送別会の席順はいかがいたしましょうか?
- 部長、送別会の席順はいかがなさいますか?
このふたつの例文は酷い(自分で作っておいてなんですが…)。
いちおう例文にはしましたが、主語もわからなければ、どうしたいのかもわからない。あなたの意思も伝わりにくい、というすご~く曖昧な表現なのです・・・。
とくに重要な案件であればあるほど、もっとはっきりと言うべきです。
たとえば、
「今度の送別会、部長の席順はいかがなさいますか?」
「今度の送別会、みなさんの席順はいかがいたしましょうか?」
「部長、今度の送別会の席順を考えておりまして・・・。どのように調整いたしましょうか?」
「部長、今度の送別会の席順を考えておりまして・・・。部長は上座でよろしいでしょうか?」
などとするべきですよね・・・。
あぁ~~~、書けば書くほど「いかが」を使うのは「いかがなものか?」となってきました。
確実に許される使い方としては、
「部長、お飲み物はいかがなさいますか?」ですね。
ということで多用するのは止めておきましょう。私のようにドツボにはまります(汗)。
まとめ
今回はこれでもかというくらい「いかがなさいますか?」「いかがでしたでしょうか?」が敬語として正しい理由、にも関わらず「使う場面が少ない」理由について語ってみました。
使うときの注意点を必ずおさえ、相手をイラつかせないように気をつけましょう。
ご参考になりましたら幸いです。ではでは~~。