「拝読いたしました」は間違い敬語?二重敬語?
とご心配のあなたへ。
「拝読いたしました」は100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。
使い方にはたとえば、
- 【例文】資料を拝読いたしました。
- 【例文】xx先生の新著を拝読いたしました。
- 【例文】xx教授の論文を拝読いたしました。
- 【例文】ご推奨いただいた本を拝読いたしました。
などがありいずれも「拝読=(本・資料などを)読むこと」の意味でつかわれます。つまり「読みましたよ!」と上司なり目上・取引先に伝えるためにつかう敬語ですね。
ただし敬語(謙譲語)をつかっているため実際にはもっと丁寧で「つつしんで読む」のようなニュアンスになります。
「読むこと」のよりカチッとした敬語が「拝読」だとお考えください。
それでは「拝読いたしました」が正しい敬語である理由とビジネスメールでの使い方、例文を紹介します。
「拝読いたしました」が二重敬語ではない理由
「拝読いたしました」は二重敬語ではありませんし間違い敬語でもありません。正しい敬語です。
なぜなら謙譲語「拝読」を「拝読する」としたうえで「する」の部分に謙譲語「いたす」を用いているから。さらに丁寧語「ます」をくっつけると「拝読いたしました」という敬語になります。
ただ。
これではあまりにも不親切なので誰もが理解できるようにくわしく解説していきます。
“拝読”は名詞であり動詞”する”が必要
敬語を正しく理解するために中学生レベルの日本語文法をすこしだけ復習します。
「拝読」は「読むこと」の意味の謙譲語と考えることができますが品詞は名詞です。このままではほとんど文章には使えません。
たとえば先の例文で「著書を拝読ました」「資料を拝読ました」では意味不明な文章になりますよね?
そこで。
「読む」という意味にするには動詞「する」をくっつけて「拝読する」とします。
“①読むこと②する”それぞれに謙譲語を使っているから正しい
で。
果たしてなぜ中学生レベルの復習が必要だったのかというと…
- 「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
- 「いたす」=「する」の意味の謙譲語
がそれぞれ別の単語であることを理解するためです。
これが分かればすでに正解にたどり着いています。
「①読むこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
ようするにビジネスメールでよく使う以下の敬語と同じことなのです。
- ご報告いたします
“①報告”に謙譲語「ご」で「ご報告」
“②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」 - ご連絡いたします
“①連絡”に謙譲語「ご」で「ご連絡」
“②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」 - お知らせいたします
“①知らせる”に謙譲語「お」で「お知らせ」
“②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」 - お願いいたします
“①願う”に謙譲語「お」で「お願い」
“②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」をくっつけ「いたします」
もし「拝読いたしました」が二重敬語になるのであれば「ご報告いたします」や「お知らせいたします」「お願いいたします」も二重敬語になりますよね??
ところが実際にはどれも正しい敬語でありビジネスメールによく使われます。
【補足】そもそも二重敬語とは?
二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。
よくある二重敬語としては「お伺いする」「お伺いいたす」があります。
なぜこれらが二重敬語なのかというと…
- 「行く/聞く/たずねる」を謙譲語にして「伺う」
- さらに謙譲語「お~する」「お~いたす」
もとになる語「行く/聞く/たずねる」に謙譲語「伺う」をつかい、さらに謙譲語「お〜する」「お〜いたす」を使っています。
「伺う」は動詞であるために名詞「拝読」と違い「~する・~いたす」という動詞をくっつけることが日本語として既におかしい訳ですが…
まぁいずれにせよ二重敬語なので間違いです。ひとつの語に同じ種類の敬語を2回つかうことが二重敬語であり、敬語のマナー違反になります。
【注意点】”拝読いたしました”はこう使う!
つづいて「拝読いたしました」をつかうときの注意点について簡単に。
①立てているのは目の前の相手ではなく、著者!
「拝読いたしました」をつかうときの注意点その一。
「拝読」は著者なり資料を書いたヒトを立てるためにつかう敬語です。
NGとなる使い方にはたとえば。
×お客さんの前で自分の上司が書いた本を「拝読いたしました」とするのは間違い。これだとお客さんではなく上司を立ててしまうことになります。
ポジションとしては「お客さん >> 上司」であるハズなので丁寧語だけをつかい「読みました」とするのが妥当です。
あるいは。
×上司の前で後輩の書いたレポートを「拝読いたしました」というのも間違い。これだと上司ではなく後輩を立ててしまうことになります。「上司 >> 後輩」であるハズなので丁寧語だけをつかい「後輩のレポートを読みました」とするのが妥当です。
②”ご拝読いたしました”は二重敬語!
「拝読いたしました」をつかうときの注意点その二。
もっとも初歩的な敬語の使い方なのですが…「ご拝読いたしました」はNGです。
「拝読」はすでに「読むこと」の敬語(謙譲語)なのに、さらに謙譲語「ご」をくわえてしまっています…
結果として「読むこと」に①謙譲語「拝読」+②謙譲語「ご」としており二重敬語になりますね。※二重敬語とはひとつの単語におなじ種類の敬語を2回つかうことでありNGです。
あるいは。
「お(ご)~いたす」のひとかたまりを「~する」の謙譲語として見たとき。「ご拝読いたす」でもいいんじゃないのか?とする意見もあります。ただ「~する」の謙譲語が「お(ご)~いたす」だという解釈を適用した場合には「拝読」が謙譲語であるため、そもそも二重敬語ということになります。したがってこの記事では「①読むこと」「②する」にそれぞれ謙譲語を適用するという解釈で「拝読いたす」のみを正しいとしました。
③”拝読してください””拝読していただく”は間違い敬語!
「拝読いたしました」をつかうときの注意点その三。
こちらも初歩的な敬語の使い方なのですが…「読んでほしい!読んでください!」と言いたいときに「拝読してください!」は間違い敬語です。
「拝読」は謙譲語であるため自分の行為につかい相手の行為にはつかいません。
たとえば以下の使い方は間違い敬語となりNGです。十分にお気をつけください。
- NG例×上司なり目上・取引先に拝読してください「添付のレポートを拝読してください」
- NG例×上司なり目上・取引先に拝読していただく「お手元の資料を拝読していただけますか」
相手の行為には基本的に謙譲語ではなく尊敬語をつかいます。※例外あり
したがって相手に読んでほしいときには。
読むことの尊敬語「お読みくださる」や例外的に謙譲語「お読みいただく」をつかいます。またはシーンに応じて見ることの尊敬語「ご覧くださる」をつかってもOK。
以下のようにすると正しい敬語になりますね。
- 正しい例◎「添付のレポートをお読みください」あるいは「ご覧ください」
- 正しい例◎「まずはお手元の資料をお読みください」あるいは「ご覧ください」
いずれも上司なり目上・取引先に何かしら「読んでください・読んでほしい」といいたいときに使える敬語になります。
④”拝読させて頂く”も正しい敬語だが…
あとはこちらもよくある敬語の勘違い。
「拝読させていただく」「拝読させていただきます」は二重敬語だから誤りだという意見もあります。ただし答えは二重敬語ではなく100%正しい敬語です。
「拝読させていただく」は以下のように「①読むこと」「②させてもらう」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
①「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
②「させていただく」=「させてもらう」の意味の謙譲語
ただし。
使うシーンによっては日本語としておかしくなるため注意が必要。
「拝読させていただく」の意味は「読ませてもらう」ということですから、何かしら相手にとって不都合なことにたいして許可を得るようなニュアンスです。
たとえば。
◎「(上司あての)手紙を拝読させていただきました。」としたとき。他人宛の手紙というのはプライバシーにかかわる情報が満載であるため本来であればヒトに読ませるようなものではありません。それをあなたが黙って読んだとしたら、これはもう相手に謝罪しなければいけない事態です。あるいは上司に頼んでもないのに見せつけられたにせよ、上司のプライバシーにかかわる部分を「悪いけど読ませてもらった」ということになります。
したがってそんなときに「悪いけど手紙を読ませてもらったよ、許してね」というニュアンスで「拝読させていただく」をつかっても丁寧です。
あとはまぁ許容される使い方としては。
○「先生の著書を拝読させていただきました。」とした場合。先生としては誰かしらに読んでもらうために本を書いているわけです。それなのにこの使い方だと「悪いけど新著を読ませてもらったよ、許してね」というようようなニュアンスになります。
でもまぁ、こう言われて悪い気はしないのでつかってもOKです。完全に相手次第ですね。言葉はロジックでは言いあらわせない何かがあります(完全に逃げ)。
ところが。
×「WEB上に公開されている技術資料を拝読させていただきました」とした場合。会社としてはお客さんなり誰かしらに読んでもらうために技術資料を公開しているわけです。それなのにこの使い方だと「悪いけど技術資料を読ませてもらったよ、許してね」というようようなニュアンスになります。
もし資料の内容がディープで誰にも見られたくないようなものであれば、「資料を拝読させていただきました」でもまぁよいでしょう。ところが常識的にはそうじゃない訳です。
したがってこんな時には「拝読しました/拝読する」が正しい日本語の使い方ということになります。
⑤”拝読しました”でも十分に丁寧
あとは注意点というか使い方について。
これまで「拝読いたしました」が敬語として正しい理由をみてきましたが…
じつは「拝読しました」だけでも敬語としては十分に丁寧です。なぜなら「読むこと」の謙譲語「拝読」をつかっているわけですから。あえてこれ以上に丁寧にする必要もありません。
相手にたいして本当に敬意をしめす必要があるときに「拝読いたしました」とし、そうでなければ「拝読しました」だけでOKです。
他にもある二重敬語と勘違いしやすい例
あとは「拝読」だけでなく「拝」をつかった謙譲語で二重敬語と勘違いしやすい例をまとめておきます。
『拝察いたします』
「拝察いたします」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。
使い方にはたとえば、
- 【例文】皆さまさぞご心痛のことと拝察いたします。
- 【例文】ご多忙のことと拝察いたしますが、お早めにご対応いただけますと幸いです。
などがあり、いずれも「(相手の心情や立場・状況を)察すること」の意味でつかわれます。
正しい敬語である根拠は以下のとおり。
- 「拝察」=「察すること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
- 「いたす」=「する」の意味の謙譲語
「①察すること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
『拝受いたしました』
「拝受いたしました」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。
使い方にはたとえば、
- 【例文】本日ご注文書を拝受いたしました。
- 【例文】メール拝受いたしました。早々にご対応いただき誠にありがとうございます。
- 【例文】先ほどカタログを拝受いたしました。ご多忙にも関わらず早々に手配いただきありがとうございます。
などがあり、いずれも「受け取ること」の意味でつかわれます。
正しい敬語である根拠は以下のとおり。
- 「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
- 「いたす」=「する」の意味の謙譲語
「①読むこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
『拝見いたしました』
「拝見いたしました」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。
使い方にはたとえば、
- 【例文】WEBサイトを拝見いたしました。
- 【例文】先日のスーパープレーを拝見いたしました。
などがあり、いずれも「見ること」の意味でつかわれます。
正しい敬語である根拠は以下のとおり。
- 「拝見」=「見ること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
- 「いたす」=「する」の意味の謙譲語
「①見ること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
その他「拝○いたします」はたいてい正しい
これまで紹介した例文だけでなく「拝○いたします」はたいてい正しい敬語です。理由はこれまで再三のべたとおりです。お気兼ねなくお使いください。
【まとめ】二重敬語に感じられる理由と正しい解釈
ゴチャゴチャしてきたのでまとめます。
なぜ「拝読いたしました」が間違い敬語のように感じてしまうかというと…
「拝読」はすでに謙譲語であり、さらに「する」の謙譲語「いたす」をつかって「拝読いたす」としているから…
「拝読=謙譲語」×「いたす=謙譲語」
「拝読いたす」は「謙譲語 x 謙譲語」だから二重敬語??
このようなロジックで二重敬語だという意見がでてくるのかと。
ただし答えは…いい加減しつこいのですが「二重敬語ではない」です。
二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。
たとえば「お伺いいたします」「お伺いする」などが二重敬語の例。「行く・尋ねる」の謙譲語「伺う」をつかっているのに、さらに「お〜いたす」「お〜する」という謙譲語をつかっているためです。
ところが。
「拝読いたす」は以下のように「①読むこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。
①「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
②「いたす」=「する」の意味の謙譲語
どうしても納得できない場合の言い換え
ここまでの解説で終わりになります。
が。
それでもまだご納得いただけない方は…
シンプルに「拝読しました」をつかうとよいでしょう。