「資産5000万円」

この数字はあなたにとって大きな目標であり、同時に、どこか遠い世界の話に聞こえるかもしれません。
しかし、これは決して到達不可能なゴールではありません。今回は、30代で資産5000万円の壁を突破した私が、そのステージから見えた「リアルな景色」を、余すことなくお話しします。
華やかな成功譚だけでなく、そこにあった焦りや不安、そして次なる目標へ向かうための思考法まで。これから資産形成の旅に出る、あなたのヒントになれば幸いです。
1. 資産5000万円の「生活」と「本音」
あなたが一番知りたいのは、「で、結局どんな生活ができるの?」という点でしょう。実感に基づき、Q&A形式で正直にお答えします。
Q. FIRE(早期リタイア)は可能ですか?
A. 独身ならかろうじて可能。家族持ちなら、はっきり言って不可能です。
これが私の結論です。資産5000万円というと大金に見えますが、株式市場は常に動いています。
痛感したのは、持っている資産の額そのものよりも、配当金などで寝ていても確実に入ってくるお金(キャッシュフロー)が重要だということです。当時、私が受け取っていた年間の配当金は、税金を引いた後で約150万円。月々にすると、わずか12.5万円です。
これでは、せっかく増やした資産を売ってお金にし、資産を切り崩さなければ生活できません。明日、株価が暴落して5000万円が3000万円になるかもしれないような不確実なものに、家族の生活を賭けることはできませんでした。
有名な「4%ルール」というものがあります。これは「資産の4%(5000万円なら200万円)までなら毎年使っても、資産は25年間くらいもつだろう」という考え方ですが、30代の私にはまだ心もとなく感じられました。
Q. では、「セミリタイア」なら?
A. 独身なら可能ですが、家族がいるならまだフルタイムで働くべき、というのが私の考えです。
なぜなら、5000万円という資産は、資産を減らさないように「守り」の生活に入るには心もとなく、仕事を続けて「攻め」の姿勢を続ければ大きく化ける可能性を秘めた金額だからです。
仕事を続けていれば、この資産に一切手を付けずに、雪だるま式にお金が増えていく力(複利の力)で、さらなる高みを目指せます。事実、私自身、このステージから2年ちょっとで資産1億円を達成することができました。(もちろん、運の要素も大きいですが)
守りに入って資産を少しずつ使ってしまうよりも、攻め続けて次のステージを目指す方が、遥かに大きなリターンを狙えるのです。
Q. 生活レベルは変わりましたか?
A. 「庶民にちょっと毛が生えたレベル」ですが、お金に対する考え方は大きく変わりました。
都内の家賃が高いエリアに住み、子供の習い事にもお金を惜しまなかったので、上司や同僚からは「羽振りがいいね」「良いところに住んでるなぁ」と、よく探りを入れられました(笑)。
しかし、車を持つような見栄のための贅沢は一切しませんでした。大切なのは、生活レベルを上げすぎず、お金にさらにお金を生んでもらうための大切な「種銭」を守り抜くこと。 これが1億円へのステップアップに繋がる重要なコツです。
お金に困ることはないという自信が生まれる一方で、「まだまだ完全なリタイアは遠い」という焦りも同居する、複雑な心境でしたね。
Q. 老後の不安はなくなりますか?
A. 年齢によります。30代の私にとっては、むしろ「もっと積み上げなければ」という焦りの方が大きかったです。
しかし、もしあなたが60歳で資産5000万円と退職金を手にしているなら、話は全く別です。非常に安心感のある老後が送れるでしょう。
簡単なシミュレーションをしてみましょう。
【65歳夫婦・資産5000万円の場合】
- 公的年金収入: 約22万円/月(標準的な夫婦の場合)
- 配当金収入: 約12.5万円/月(年間150万円と仮定)
- 月間収入合計: 約34.5万円
総務省の調査によると、年金暮らしの夫婦の平均的な生活費は約25万円です。つまり、年金と配当金だけで生活費がまかなえるので、5000万円の資産本体には一切手を付けずに暮らしていける、という計算になります。病気や介護についても、日本の優れた健康保険制度を考えれば、5000万円の資産は絶大な安心材料となるでしょう。
2. 資産5000万円の「立ち位置」
次に、この資産額が社会全体でどのレベルにあるのか、客観的なデータで見てみましょう。
Q. 資産5000万円は「富裕層」ですか?
A. いいえ、専門機関の定義では「準富裕層」に分類されます。「富裕層の一歩手前」といった位置づけで、気持ち的には「小金持ち」レベルです。
階層 | 純金融資産 | 世帯数 | 割合 |
---|---|---|---|
超富裕層 | 5億円以上 | 9.0万世帯 | 0.17% |
富裕層 | 1億円以上5億円未満 | 148.5万世帯 | 2.74% |
準富裕層 | 5000万円以上1億円未満 | 325.4万世帯 | 6.01% |
アッパーマス層 | 3000万円以上5000万円未満 | 726.3万世帯 | 13.42% |
マス層 | 3000万円未満 | 4173.0万世帯 | 77.66% |
※野村総合研究所「NRI富裕層アンケート調査」(2023年)より推計
データを見ると、準富裕層以上は、日本の上位約9%に入ります。決してありふれた存在ではないことが分かります。
特に30代・40代は子育てなどでお金がかかる時期。お給料を貯めるだけでなく、お金に働いてもらう「投資」を実践しているかどうかが、このステージに到達するための大きな分かれ道になると言えるでしょう。
3. 5000万円を「増やし、保つ」技術
ここからは、5000万円という資産をどう運用していくか、具体的な話をします。
Q. おすすめの運用方法は?
A. 私自身は「日本の個別株100%」という少し偏ったやり方でしたが、初心者の方には全く推奨しません。
これから始める方や、安定的に増やしたい方には、「アメリカの優良企業詰め合わせパック」と「日本の優良企業詰め合わせパック」を半々で持つことを強くお勧めします。
具体的には、「S&P500」や「日経平均」といった指数に連動する投資信託(インデックスファンド)のことです。これらを買い続けるだけで、日米の経済全体の成長の波に乗ることができ、自然と資産は増えていきます。
Q. 資産の組み合わせ(ポートフォリオ)の例を教えてください。
A. 以下に3つのモデルケースを提案します。
- 安定志向(リスクを抑えたい人向け)
株の詰め合わせパック(インデックス投資):50%
預金・現金(守りの資産):50%
株価が下がった時のダメージを抑え、着実に資産を守りながら増やします。 - バランス重視(私が最も推奨する形)
アメリカ株パック(S&P500連動ETF):40%
日本株パック(日経平均 or TOPIX連動ETF):40%
現金(暴落した時のバーゲンセールで買い増すための待機資金):20%
攻めと守りのバランスが良く、長期的な資産の成長が期待できます。 - 積極派(リスクを取って大きく増やしたい人向け)
自分で選んだ個別会社の株:60%
株の詰め合わせパック(インデックス投資):30%
現金:10%
大きな利益を狙えますが、相応の勉強とリスク管理が絶対に必要です。
Q. 税金対策はどうすればいいですか?
A. 相続の心配はまだ不要。まずは利益が非課税になるNISAをフル活用しましょう。
5000万円の資産規模なら、将来の相続税を今から過度に心配する必要はありません。それよりも重要なのは、投資で得た利益がまるまる非課税になるNISA(ニーサ)というお得な制度の枠を、毎年しっかり使い切ることです。
特に年間240万円まで投資できる「成長投資枠」は、資産形成のスピードを上げてくれる強力な武器になります。
4. 5000万円への「道のり」
最後に、どのようにしてこのステージにたどり着いたか、そしてこれから目指すあなたへのアドバイスです。
Q. あなたは、どうやって達成したのですか?
A. 会社員(20代年収約400~600万円、30代前半年収700万円、30代半ば年収900万円、30代後半年収1000万円超)をしながら副業でまとまったお金を稼ぎました。
副業で稼いだお金3000万円を元手に投資を本格的に始めて約4年、30代半ばで達成しました。
元手が3000万円と大きかったこともありますが、戦略は「良い会社の株を、適正な価格で買う」という世界一の投資家ウォーレン・バフェット氏の教えに尽きます。これから長く成長していきそうな会社の株をじっくり見極めて、そこに集中して投資しました。
節約や家計管理を細かくやっていたわけではありませんが、「資産を切り崩さない身の丈に合った生活」を心掛けていたことが、結果的に最大の資産防衛になっていたと思います。
Q. これから始める人へ、投資の始め方を教えてください。
A. 難しく考えず、以下の3ステップから始めてください。
- 証券会社の口座を開設する:まずはNISA口座から始めましょう。ネット証券ならスマホで簡単に開設できます。
- 投資商品を選ぶ:先ほど説明した「株の詰め合わせパック」(米国株式のインデックスファンドなど)を選べば、アメリカ中の優良企業にまとめて投資できるので、まず間違いありません。
- 毎月自動で積立設定をする:無理のない金額(最初は月1万円でもOK)で、毎月自動的に買い付ける設定をします。あとは基本的に「ほったらかし」で大丈夫です。
最後に:5000万円を目指すあなたへ
資産5000万円は、人生の選択肢を大きく広げる、重要な節目です。
しかし、それはゴールではありません。むしろ、本格的な資産づくりのスタートラインであり、1億円という次のステージへの滑走路です。
この旅路で学んだ最も重要なことは、「時間を味方につけること」そして「何があっても市場から逃げ出さないこと」です。
焦らず、怖がらず、コツコツと学び、種を蒔き続ける。そうすれば、雪だるま式にお金が増えていく「複利」という魔法のような力が、やがてあなたの資産を、想像もしていなかった場所まで運んでくれるはずです。
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