皆さん、こんにちは!
日経平均もS&P500も好調で、資産が増えている方も多いと思います。前回の記事では、そんな好調な相場での「利益確定のタイミング」についてお話ししました。
しかし今日はその逆。もっと重要で、もっと耳が痛いお話をします。それは「損切り」についてです。
「投資で勝ちたい!」と誰もが思いますよね。でも実は長期的に資産を築いている投資家ほど、「どう勝つか」より「どう負けるか」を大切にしています。
「損を確定させるなんて考えたくない…」
「いつか株価は戻るはずだ…」
そう思って、評価額がマイナスになっている銘柄を、見て見ぬふりをしていませんか?
今日の記事では、私自身が犯した「塩漬け株」という大失敗を、包み隠さずお話しします。なぜ、合理的に考えれば「損切り」が正しいと分かっているのに、私たちはそれができないのか。そして、どうすればその呪縛から逃れられるのか。この記事が、あなたの資産という大切な庭から「雑草」を抜き、美しい「花」を育てるためのヒントになれば幸いです。
私の塩漬け大失敗談:マンダム株との3年間
前回の記事では、FPGという株を早々に利確してしまい、その後の5倍上昇を逃した「早すぎた利確」の話をしました。
実は、あの話には痛恨の続きがあります。なぜ私が、将来有望なFPG株を30%程度の利益で手放してしまったのか。それは、別の株の含み損を埋めるための資金が欲しかったからです。
その元凶こそ、男性用化粧品ギャツビーのブランドで有名なマンダム(4917)でした。
始まりは「きっと回復する」という期待
私がマンダム株を買ったのは、コロナショックで世界中が混乱していた時期。外出規制でヘアワックスや化粧品が売れなくなり、株価は大きく下落していました。
しかし、私はこう考えました。
「gatsby(ギャツビー)やLUCIDO(ルシード)といった強力なブランドを持っている。男性化粧品では圧倒的だ。コロナが明ければ人々はまた外出する。そうなれば業績は必ず回復するはずだ!」
この「回復ストーリー」を信じ、私はマンダム株に投資しました。しかし、現実は甘くありませんでした。
期待が「塩漬け」に変わるまで
私の期待とは裏腹に、業績の回復は驚くほど鈍かったのです。株価は一向に買値に戻らず、常に▲10%〜▲20%の含み損を抱える日々が続きました。
毎日、証券口座を開くたびに目に入る真っ赤なマイナスの数字。それは精神的に大きなストレスでした。
しかし、私は自分の間違いを認めたくありませんでした。
「いや、もう少し待てば回復するはずだ」
「ここで売ったら、損失が確定してしまう」
そう考え、私は最悪の選択をします。「ナンピン買い」です。株価がさらに下がったところで買い増し、平均取得単価を下げるという、一見合理的に見える行動です。しかし、これは沈みゆく船の穴をさらに広げる行為でした。損失は膨らむばかり。
そして、このナンピン買いの資金を捻出するために、当時50%の利益が出ていたFPG株を売ってしまったのです。
結果は、もうお分かりですよね。
- マンダム株:回復しないまま、3年近く資産を拘束する「塩漬け株」に。
- FPG株:売った後、株価は約5倍に成長。
まさに、伝説の投資家の言葉通り「花を摘んで、雑草に水をやる」という、最もやってはいけないことをしてしまったのです。
利益が出ている株を売り、損失が出ている株を持ち続けるのは、花を摘んで、雑草に水をやるようなものだ。
ピーター・リンチ(伝説のファンドマネージャー)
最近、マンダムはMBO(経営陣による株式買収)を発表し、株価は上昇しました。もし私が今日まで持ち続けていれば、わずかな利益は出ていました。しかし、断言できます。その利益は、この3年という時間と、FPGで得られたはずの莫大な利益(機会損失)を、到底正当化できるものではありません。
なぜ、私たちは損切りできないのか?
私の失敗談を読んで、「自分も同じような経験がある…」と思った方もいるかもしれません。なぜ、頭では分かっていても損切りはこれほど難しいのでしょうか。それには、人間の心理的なワナが関係しています。
ワナ1:損失を確定させたくない「プロスペクト理論」
人間は、「利益を得る喜び」よりも「損失を被る苦痛」を2倍以上強く感じるようにできています。1万円儲けた喜びより、1万円損した痛みの方がはるかに大きいのです。だからこそ、「損失を確定させる」というボタンを押すことに、本能的な抵抗を感じてしまいます。
ワナ2:「いつか戻るはず」という正常性バイアス
「これは一時的な下落だ」「自分だけは大丈夫」と、自分に都合の良いように考えてしまう心理です。私のマンダム株に対する「ブランド力は本物だから大丈夫」という思い込みも、まさにこれでした。購入時のシナリオが崩れているという現実から目を背けてしまうのです。
損切りがもたらす、2つの「解放」
では、勇気を出して損切りをすると、何が得られるのでしょうか。私は、2つの大きな「解放」があると考えています。
1. 資金の解放【機会損失からの解放】
これが最も重要です。塩漬け株に拘束されていた資金が自由になります。その資金で、マンダムではなく半導体株や銀行株に投資していたら…と考えると、その差は歴然です。損切りとは、成長の見込めない土地から資金を引き上げ、もっと豊かな土地に種をまき直す行為なのです。
2. 精神の解放【ストレスからの解放】
含み損を抱え続ける毎日は、想像以上に精神をすり減らします。損切りをすることで、その重圧から解放され、もっと前向きな気持ちで次の投資戦略を考えることができます。冷静な判断力を取り戻すためにも、損切りは不可欠なのです。
「自分だけの損切りルール」を持とう
感情に流されず損切りを実行するために、あらかじめ「機械的なルール」を決めておくことが何よりも大切です。
ルール1:数字で決める「%ルール」
最もシンプルで強力なルールです。「買値から-10%下がったら、いかなる理由があろうとも売る」と決めてしまう方法です。感情を挟む余地がありません。
ルール2:理由で決める「シナリオ崩壊ルール」
これは、特に個別株投資で重要です。「なぜ、その株を買ったのか?」という根拠が崩れた時に売る、というルールです。
私のマンダムのケースで言えば、「コロナが明け、業績がV字回復する」というのが購入シナリオでした。しかし、決算発表でその回復が想定よりはるかに鈍いと分かった時点、つまり「シナリオが崩れた」と判断した時点で、たとえ含み損が小さくても損切りすべきだったのです。
失敗から学ぶ。損切りを「未来への投資」に変えた銀行株の話
マンダム株を塩漬けにしてしまった後、私は日本の銀行株に投資していました。2023年当時、長年のゼロ金利政策の解除と、その後の利上げへの期待から、銀行株は力強い上昇トレンドの只中にありました。私の「購入シナリオ」は、この金利上昇への期待が続くことでした。
しかし、忘れもしない2024年8月。寝耳に水のニュースが飛び込んできます。アメリカの景気失速懸念が引き金となり、米国株が急落。その波を受けて日経平均はそれ以上に大きく下落し、景気敏感株の筆頭である銀行株は総崩れとなりました。1日で-10%、2日後には-20%を超える、まさに「暴落」でした。
私の頭をよぎったのは、マンダムの苦い記憶です。
「あの時と同じだ。回復を信じて、また塩漬けにするのか…?」
いいえ、今回は違いました。
この暴落で、私が描いていた「緩やかな金利上昇を背景にした株価上昇」という短期的なシナリオは、一旦崩れたと判断しました。明確な「-〇%」というルールは決めていませんでしたが、「シナリオが崩れたら売る」という、マンダムの教訓から得た自分の中のルールに従い、私は素早く銀行株を全て損切り(利益確定分も含め売却)したのです。
なぜ、あの時ためらわずに売れたのか。それは、心の中にこんな思いがあったからです。
「もしこの判断が間違っていたら、また買い戻せばいいじゃないか」
この一言が、驚くほど私を楽にしてくれました。損切りは「永遠の別れ」ではない。状況が変われば、またエントリーすればいい。そう思うと、売却ボタンを押す指は全く重くありませんでした。
そして暴落が一服し、市場が冷静さを取り戻した頃。「さすがにここらが底だろう」と判断した私は、再び銀行株を買い始めました。しかも、損切りした時よりも多くの資金を、慌てず時間分散しながら買い戻していったのです。
結果どうなったか。
あの時、一度撤退するという冷静な判断を下した私の銀行株は、損切りによる約200万円の損失を補って余りあるリターンをもたらし、今では1,000万円以上もの含み益を生み出す、ポートフォリオの優等生に育ってくれました。
この成功体験は断言できます。
あのマンダム株での3年間の塩漬けという、痛くて惨めな失敗があったからこそ、掴めたものです。
結論:損切りは「次」へ進むための戦略的撤退
投資に「絶対」はありません。どんなプロでも、投資判断を間違えることはあります。大切なのは、間違えたと気づいた時に、いかに早く撤退し、次のチャンスに備えられるかです。
損切りは、あなたの投資が「失敗」したことを意味するのではありません。
それは、あなたの資産を守り、さらに大きく育てるための、賢明で勇気ある「戦略的撤退」なのです。
あなたのポートフォリオに、水をやり続けても花が咲きそうにない「雑草」はありませんか?
勇気を出してその雑草を抜き、新しい花の種をまく準備を始めましょう。その一歩が、あなたの投資家としてのレベルを、間違いなく一段階引き上げてくれるはずです。
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