はじめに:「思考停止」でオルカン、本当に大丈夫?
新NISAが始まり、「投資をはじめよう!」と思ったあなたの目に、必ずと言っていいほど飛び込んでくるのが「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称「オルカン」ですよね。
「これ1本で全世界にまるっと投資できる!」
「専門家も初心者におすすめって言ってるし、これでいいや!」
その気持ち、すごくよく分かります。複雑な銘柄選びから解放され、手軽に資産形成の第一歩を踏み出せるオルカンは、まさに救世主のような存在。実際に470万人以上もの人が投資している、絶大な人気を誇る投資信託です。
しかし、その「思考停止で選べる」という最大のメリットが、実はあなたの資産形成にとって思わぬ落とし穴になるかもしれません。
多くの人が信じている「全世界にバランス良く分散」という言葉。そのウラには、実は見過ごせない偏りとリスクが隠されています。
この記事では、「とりあえずオルカン」という今の常識に、あえて「本当にそれでいいの?」と問いかけます。データを基にオルカンの”本当の姿”を解き明かし、もっとあなたに合った、納得感のある新しい投資の選択肢を提案します。
その名も、「成長は米国株(S&P500)、安定は日本株(TOPIX)」という最強の二刀流戦略です。
この記事を読み終える頃には、あなたは「誰かが良いと言っていたから」ではなく、「自分で納得して」資産運用の舵を取れるようになっているはずです。
「全世界株式」のワナ:オルカンの3つの不都合な真実
多くの人がオルカンに抱くイメージは、「世界中の国にバランス良く投資してくれる、安心な幕の内弁当」といったところでしょうか。しかし、そのお弁当のフタを開けて、中身をじっくり見てみると、イメージとはちょっと違う現実が見えてきます。
1. 「全世界」と言いつつ、中身はほぼ「アメリカ」!
オルカンが目指している「MSCI ACWI」という株価指数。これはいわば、オルカンが目指す「完成図」です。しかし、その中身を見てみると…
なんと、約64%がアメリカの株で占められています。
※投資するタイミングによって変わりますが、現在おおむね6割強はアメリカ株です。
つまり、あなたが「全世界」に投資したつもりの100万円のうち、約64万円はアメリカに集中投資されているのです。日本は約5%、中国は約3%に過ぎません。
これは、「全世界まんじゅう」を買ったつもりが、中身はほとんど「あんこ(アメリカ)」で、皮に申し訳程度に他の具材が入っているようなもの。これが「バランスの良い分散」と言えるでしょうか?
なぜこうなるの?
これは「時価図体加重平均」という仕組みが理由です。すごく簡単に言うと、「図体がでかい企業(時価総額が大きい)ほど、たくさん応援(投資)する」というルールだから。近年、AppleやMicrosoftといったアメリカの巨大IT企業が世界経済をグイグイ引っ張ってきた結果、自動的にアメリカの割合がどんどん高まっているのです。
つまり、オルカンに投資することは、「現在の世界経済」に賭けるというより、「これからもアメリカの巨大IT企業が勝ち続ける」という未来に賭けることに近いのです。
2. 隠れたリスク:結局GAFAM主体のハイテク頼みになっている
国の偏りは、当然、投資先の企業にも現れます。オルカンの中身をさらに詳しく見て、上位10社を見てみましょう。
順位 | MSCI ACWI (オルカン) の上位銘柄 |
---|---|
1 | NVIDIA |
2 | MICROSOFT |
3 | APPLE |
4 | AMAZON |
5 | META (Facebook) |
6 | BROADCOM |
7 | ALPHABET (Google) |
8 | ALPHABET (Google) |
9 | TESLA |
10 | TAIWAN SEMICONDUCTOR |
すごい顔ぶれですね!でも、気づきましたか?ほとんどがアメリカの巨大IT企業、いわゆるGAFAM+αです。この上位10社だけで、オルカン全体の約20%を占めています。
【ひとこと解説】GAFAM(ガーファム)とは?
Google, Apple, Facebook(現Meta), Amazon, Microsoftの頭文字をとった言葉で、世界経済に絶大な影響力を持つアメリカの巨大IT企業の総称です。私たちの生活に深く根付いたサービスを提供している企業たちですね。
ここで、アメリカの代表的な株価指数「S&P500」の上位銘柄と比べてみましょう。
順位 | S&P500の上位銘柄 |
---|---|
1 | NVIDIA |
2 | MICROSOFT |
3 | APPLE |
4 | AMAZON |
5 | META (Facebook) |
6 | BROADCOM |
7 | ALPHABET (Google) |
8 | BERKSHIRE HATHAWAY |
9 | TESLA |
10 | ALPHABET (Google) |
…ほぼ一緒ですよね?
これは、オルカンの成長を引っ張っているエンジンが、S&P500のエンジンと実質的に同じだということを意味します。
「全世界に分散」しているつもりが、結局その値動きは、一握りのアメリカのIT企業の業績に大きく左右されているのです。だとしたら、「もっとシンプルに、そのエンジン(S&P500)に直接投資した方が効率的じゃない?」という疑問が湧いてきませんか?
3. 新興国は「ハイリスク・ローリターン」なトッピング?
「でも、オルカンにはS&P500にはない新興国株が入っているじゃないか!」
その通りです。オルカンには約10%の新興国株が含まれています。これがS&P500との大きな違いです。
しかし、ここにジレンマがあります。
- リターンへの貢献は限定的:全体の10%しかないので、もし将来、新興国がものすごく成長したとしても、あなたの資産全体を押し上げる効果はあまり期待できません。
- リスクだけはしっかりある:一方で、新興国には特有の「カントリーリスク」があります。これは、政治の不安定さ、急な通貨安、紛争など、企業の業績とは関係ないところで、ある日突然株価が暴落するリスクのことです。
たとえるなら、「10%だけ味付けを変えるために、お腹を壊すかもしれない激辛スパイスを入れる」ようなもの。リターンの上乗せ効果が薄いのに、予測不能なリスクをわざわざ取り込むのは、特に投資を始めたばかりの初心者にとって、本当に賢い選択と言えるでしょうか?
新提案!成長は米国株、安定は日本株。「最強の二刀流」戦略
オルカンが抱える「隠れたアメリカ集中」と「効率の悪いリスク」という課題。これを解決するのが、もっとシンプルで、もっと納得感のある「二刀流戦略」です。
役割をハッキリさせましょう。
- 攻め(成長):世界経済のホームランバッター S&P500
- 守り(安定):あなたの資産を守るお守り TOPIX(日本株)
【攻め】世界経済の成長エンジン「S&P500」
オルカンの中身がほとんどアメリカなら、もういっそのこと、その成長の源泉であるアメリカ経済そのものに集中投資してしまいましょう。そのための最強のツールが、S&P500に連動するインデックスファンドです。
S&P500は、アメリカを代表する優良企業500社を集めた、まさに「米国経済のオールスターチーム」。歴史的にも、全世界株式を上回るリターンを上げてきました。
伝説の投資家ウォーレン・バフェットも、こう言っています。
これまで240年間、アメリカの成長に逆らうような賭けは、ことごとく大失敗に終わった。そして、今この瞬間も、その賭けを始めるべき時ではない。
ウォーレン・バフェット
これは、米国の持つイノベーションの力や強い経済システムへの信頼の言葉です。S&P500に投資することは、この世界最強の成長エンジンに直接乗り込むことを意味します。
【守り】円資産の安定錨(いかり)「TOPIX」
S&P500で積極的に成長を狙う一方で、ポートフォリオに「安定」をもたらしてくれるのが、TOPIX(東証株価指数)です。TOPIXは、日本の主要な企業をほぼ全て含んだ、日本市場全体の動きを表す指数です。
「え、日本株?あまり成長しなそう…」と思うかもしれません。しかし、日本の投資家にとって、TOPIXを持つことには3つの大きな戦略的メリットがあります。
- 為替リスクを減らせる:私たちは日本円で生活しています。資産が100%米ドルのS&P500だと、円高になった時に円での資産価値が目減りしてしまいます。資産の一部を円建てのTOPIXで持っておくことは、為替の変動から資産を守る保険になります。
- 本当の意味で分散できる:S&P500がIT企業に偏っているのに対し、TOPIXの上位にはトヨタ自動車、三菱UFJ銀行、ソニーなど、全く異なる業種の企業が並びます。これにより、IT業界が不調な時でも、他の業界がカバーしてくれるという、真の分散効果が期待できます。
- 身近な企業で安心できる:投資している企業が、日々のニュースでよく目にする日本の優良企業であることは、長期で投資を続ける上での大きな安心材料になります。
S&P500という世界のエースピッチャーだけでなく、TOPIXという日本の名捕手をチームに加えることで、攻守にバランスの取れた最強の布陣が完成するのです。
今すぐできる!私だけの「最強ポートフォリオ」の作り方
この二刀流戦略の素晴らしい点は、自分でコントロールできることです。「なんとなく全世界」ではなく、「攻めと守り」という明確な意図を持って、自分の資産を配分できます。
ステップ1:自分だけの「黄金比率」を決める
まずは、S&P500とTOPIXの比率を決めましょう。これがあなたのリスクの取り方を決めます。
- 積極的な20代・30代なら
S&P500:80%
TOPIX:20%
- → 積極的に成長を狙いつつ、2割の日本株で安定を確保!
- 安定も重視したい40代・50代なら
S&P500:60%
TOPIX:40%
- → 成長と安定のバランスを取り、リスクを抑えめに!
この「自分で決める」というプロセスこそが、「思考停止」から抜け出すための最も重要な一歩です。
ステップ2:NISA口座で2つのファンドを選ぶ
やることは驚くほど簡単です。
- 証券口座(NISA口座)を開く:まだの人は、SBI証券や楽天証券などのネット証券でサクッと開設しましょう。
- 2つの投資信託を選ぶ:
- S&P500連動ファンド:
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
など - TOPIX連動ファンド:
eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)
など
※信託報酬(手数料)が安い、人気のファンドを選べばOKです。
- S&P500連動ファンド:
- 積立設定をする:毎月の投資額と、ステップ1で決めた比率(例:月5万円投資なら、S&P500に4万円、TOPIXに1万円)で自動積立を設定します。
たったこれだけ!一度設定すれば、あとはほったらかしで、あなただけの最強ポートフォリオが自動で育っていきます。
最後に、大切な心構え:もし暴落が来たら?
この二刀流戦略も、残念ながら万能ではありません。リーマンショックのような世界的な経済危機が起きた時、米国株も日本株も、必ず一緒に下がります。「米国株が下がって日本株が上がる」というような都合の良いことはありません。
そして、そういう時オルカンに含まれる新興国株は、もっと大きく下がる傾向にあることも覚えておきましょう。
Q. じゃあ、暴落が来たらどうすればいいの?
A. 何もしない。むしろ「大バーゲンセールだ!」と喜んで、いつも通り買い続けましょう。
この問いに対する完璧な答えを、投資の神様ウォーレン・バフェット氏が教えてくれています。
他人が貪欲になっているときは恐る恐る。他人が怖がっているときは貪欲に。
― ウォーレン・バフェット
暴落とは、まさに「他人が怖がっているとき」です。周りが恐怖にかられて優良な資産を投げ売りしている時こそ、冷静にいつも通り買い続けることで、それらをありえないほどの安値で仕込める最大のチャンスなのです。
このシンプルな心構えこそが、長期投資を成功させる一番の秘訣です。
まとめ:思考停止から抜け出し、納得のいく資産形成を
今回は、「オルカン一択」という常識に一石を投じ、その中身を解剖してきました。
- オルカンは「全世界」といいつつ、実態はアメリカに大きく偏ったファンドである。
- その値動きはS&P500と似ており、分散効果は限定的かもしれない。
- 新興国株は、リターン貢献のわりにリスクが大きい可能性がある。
その代替案として提案したのが、「S&P500(攻め)+TOPIX(守り)」の二刀流戦略です。
この戦略は、「世界の成長」と「国内の安定」という明確な役割分担に基づいています。これにより、あなたは自分のポートフォリオを完全に理解し、リスクを自分でコントロールできるようになります。
投資のゴールは、ただ流行りの商品を買うことではありません。自分の考えと目的に合った、心から納得できるポートフォリオを築くことです。
オルカンという「誰かが用意してくれた正解」から一歩踏み出し、S&P500とTOPIXという2つのシンプルなツールで、あなた自身の未来をデザインしてみませんか?その主体的な一歩が、より豊かで実りある資産形成への最短ルートになるはずです。
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