「拝聴いたしました」が二重敬語でなく正しい理由

「拝聴いたしました」は間違い敬語?二重敬語?

とご心配のあなたへ。

「拝聴いたしました」は100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】講演を拝聴いたしました。
  • 【例文】xxさんの曲を拝聴いたしました。心に響くすばらしい曲ですね!
  • 【例文】ご推奨いただいた教育ラジオを拝聴いたしました。継続したく思います!

などあり。「拝聴」の意味は直訳すると「聞くこと」。敬語(謙譲語)をつかっているため実際にはもっと丁寧で「つつしんで聞くこと」という意味になります。

つまり「拝聴いたしました」だと「何かしら聞きましたよ!」と上司なり目上・取引先に伝えるためにつかう敬語ですね。

それでは「拝聴いたしました」が正しい敬語である理由とビジネスメールでの使い方、例文を紹介します。

「拝聴いたしました」が二重敬語ではない理由

「拝聴いたしました」は二重敬語ではありませんし間違い敬語でもありません。正しい敬語です。

なぜなら謙譲語「拝聴」を「拝聴する」としたうえで「する」の部分に謙譲語「いたす」を用いているから。さらに丁寧語「ます」をくっつけると「拝聴いたしました」という敬語になります。

ただ。

これではあまりにも不親切なので誰もが理解できるようにくわしく解説していきます。

“拝聴”は名詞であり動詞”する”が必要

敬語を正しく理解するために中学生レベルの日本語文法をすこしだけ復習します。

「拝聴」は「聞くこと」の意味の謙譲語と考えることができますが品詞は名詞です。このままではほとんど文章には使えません。

たとえば先の例文で「ラジオを拝聴ました」「音楽を拝聴ました」では意味不明な文章になりますよね?

そこで。

「聞く」という意味にするには動詞「する」をくっつけて「拝聴する」とします

漢語や外来語の名詞に動詞「する」をくっつける用法はほかにも「返答する」「連絡する」「報告する」などいろいろあり。

“①聞くこと②する”それぞれに謙譲語を使っているから正しい

で。

果たしてなぜ中学生レベルの復習が必要だったのかというと…

  1. 「拝聴」=「聞くこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

がそれぞれ別の単語であることを理解するためです。

これが分かればすでに正解にたどり着いています。

「①聞くこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

ようするにビジネスメールでよく使う以下の敬語と同じことなのです。

  • ご報告いたします
    “①報告”に謙譲語「ご」で「ご報告」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」
  • ご連絡いたします
    “①連絡”に謙譲語「ご」で「ご連絡」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」
  • お知らせいたします
    “①知らせる”に謙譲語「お」で「お知らせ」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」で「いたします」
  • お願いいたします
    “①願う”に謙譲語「お」で「お願い」
    “②する”を謙譲語「いたす」に変換し丁寧語「ます」をくっつけ「いたします」

もし「拝聴いたしました」が二重敬語になるのであれば「ご報告いたします」や「お知らせいたします」「お願いいたします」も二重敬語になりますよね??

ところが実際にはどれも正しい敬語でありビジネスメールによく使われます。

【補足】そもそも二重敬語とは?

二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。

よくある二重敬語としては「お伺いする」「お伺いいたす」があります。

なぜこれらが二重敬語なのかというと…

  • 「行く/聞く/たずねる」を謙譲語にして「伺う」
  • さらに謙譲語「お~する」「お~いたす」

もとになる語「行く/聞く/たずねる」に謙譲語「伺う」をつかい、さらに謙譲語「お〜する」「お〜いたす」を使っています。

「伺う」は動詞であるために名詞「拝聴」と違い「~する・~いたす」という動詞をくっつけることが日本語として既におかしい訳ですが…

まぁいずれにせよ二重敬語なので間違いです。ひとつの語に同じ種類の敬語を2回つかうことが二重敬語であり、敬語のマナー違反になります。

【注意点】”拝聴いたしました”はこう使う!

つづいて「拝聴いたしました」をつかうときの注意点について簡単に。

①”拝聴いたしました”は二重敬語!

「拝聴いたしました」をつかうときの注意点その一。

もっとも初歩的な敬語の使い方なのですが…「拝聴いたしました」はNGです。

「拝聴」はすでに「聞くこと」の敬語(謙譲語)なのに、さらに謙譲語「ご」をくわえてしまっています…

結果として「聞くこと」に①謙譲語「拝聴」+②謙譲語「ご」としており二重敬語になりますね。※二重敬語とはひとつの単語におなじ種類の敬語を2回つかうことでありNGです。

あるいは。

「お(ご)~いたす」のひとかたまりを「~する」の謙譲語として見たとき。「ご拝聴いたす」でもいいんじゃないのか?とする意見もあります。ただ「~する」の謙譲語が「お(ご)~いたす」だという解釈を適用した場合には「拝聴」が謙譲語であるため、そもそも二重敬語ということになります。したがってこの記事では「①聞くこと」「②する」にそれぞれ謙譲語を適用するという解釈で「拝聴いたす」のみを正しいとしました。

②”拝聴しましたか?””拝聴していただく”は間違い敬語!

「拝聴」をつかうときの注意点その二。

こちらも初歩的な敬語の使い方なのですが…

×「聞きましたか?」と言いたいときに「拝聴しましたか?」は間違い敬語です。

×「聞いていただけますか?」と言いたいときに「拝聴していただけますか?」も間違い敬語。

「拝聴」は謙譲語であるため自分の行為につかい相手の行為にはつかいません。

たとえば以下の使い方は間違い敬語となりNGです。十分にお気をつけください。

  • NG例×上司なり目上・取引先が拝聴しています「採用戦略にかんする講演を開きますのでよかったら拝聴してください」
  • NG例×上司なり目上・取引先に拝聴いただく「自作した曲を拝聴していただけますか」

相手の行為には基本的に謙譲語ではなく尊敬語をつかいます。※例外あり

したがって相手に見てほしいときには。

見ることの尊敬語「ご覧くださる」や例外的に謙譲語「ご覧いただく」をつかいます。以下のようにすると正しい敬語になりますね。

  • 正しい例◎「講演を開きますのでよろしければご参加(ご出席・ご臨席)くださいませ」
  • 正しい例◎「自作した曲をお聞きいただけますか?」

いずれも上司なり目上・取引先に何かしら「聞いてください・聞いてほしい」といいたいときに使える敬語になります。

③”拝聴しました”でも十分に丁寧

あとは注意点というか使い方について。

これまで「拝聴いたしました」が敬語として正しい理由をみてきましたが…

じつは「拝聴しました」だけでも敬語としては十分に丁寧です。なぜなら「聞くこと」の謙譲語「拝聴」をつかっているわけですから。あえてこれ以上に丁寧にする必要もありません。

相手にたいして本当に敬意をしめす必要があるときに「拝聴いたしました」とし、そうでなければ「拝聴しました」だけでOKです。

他にもある二重敬語と勘違いしやすい例

あとは「拝聴」だけでなく「拝」をつかった謙譲語で二重敬語と勘違いしやすい例をまとめておきます。

『拝察いたします』

「拝察いたします」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】皆さまさぞご心痛のことと拝察いたします。
  • 【例文】ご多忙のことと拝察いたしますが、お早めにご対応いただけますと幸いです。

などがあり、いずれも「(相手の心情や立場・状況を)察すること」の意味でつかわれます。

正しい敬語である根拠は以下のとおり。

  1. 「拝察」=「察すること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

「①察すること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

『拝読いたしました』

「拝読いたしました」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】ご推薦いただいた書籍を拝読いたしました。
  • 【例文】先生の新著を拝読いたしました。
  • 【例文】いつも貴ブログを楽しみに拝読いたしております。

などがあり、いずれも「読むこと」の意味でつかわれます。

正しい敬語である根拠は以下のとおり。

  1. 「拝読」=「読むこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

「①読むこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

『拝受いたしました』

「拝受いたしました」も100%正しい敬語でありビジネスシーンではよく使われます。

使い方にはたとえば、

  • 【例文】本日カタログを拝受いたしました。早々にご対応いただき誠にありがとうございます。
  • 【例文】先ほどご注文書を拝受いたしました。誠にありがとうございます。
  • 【例文】資料のほう拝受いたしました。ご多忙のところ誠にありがとうございます。

などがあり、いずれも「(資料なりメール・郵送物を)受け取ること」の意味でつかわれます。

正しい敬語である根拠は以下のとおり。

  1. 「拝受」=「受け取ること」の意味の謙譲語(単体では名詞)
  2. 「いたす」=「する」の意味の謙譲語

「①受け取ること」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

その他「拝○いたします」はたいてい正しい

これまで紹介した例文だけでなく「拝○いたします」はたいてい正しい敬語です。理由はこれまで再三のべたとおりです。お気兼ねなくお使いください。

【まとめ】二重敬語に感じられる理由と正しい解釈

ゴチャゴチャしてきたのでまとめます。

なぜ「拝聴いたしました」が間違い敬語のように感じてしまうかというと…

「拝聴」はすでに謙譲語であり、さらに「する」の謙譲語「いたす」をつかって「拝聴いたす」としているから…

「拝聴=謙譲語」×「いたす=謙譲語」

「拝聴いたす」は「謙譲語 x 謙譲語」だから二重敬語??

このようなロジックで二重敬語だという意見がでてくるのかと。

ただし答えは…いい加減しつこいのですが「二重敬語ではない」です。

二重敬語とは「ひとつの語におなじ敬語を二回つかうこと」であり敬語のマナー違反です。

たとえば「お伺いいたします」「お伺いする」などが二重敬語の例。「行く・尋ねる」の謙譲語「伺う」をつかっているのに、さらに「お〜いたす」「お〜する」という謙譲語をつかっているためです。

ところが。

「拝聴いたす」は以下のように「①聞くこと」「②する」という2つの異なる単語にそれぞれ謙譲語を用いているため二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方をしているのですね。

①「拝聴」=「聞くこと」の意味の謙譲語(単体では名詞)

②「いたす」=「する」の意味の謙譲語

どうしても納得できない場合の言い換え

これで終わりになります。

が。

それでもまだご納得いただけない方は…

シンプルに「拝聴しました」をつかうとよいでしょう。